GPSによる地すべり移動量観測に対する大気中の水分分布の影響
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要約
GPSを利用した地すべり移動量観測では、大気中の水分分布による測位誤差が問題となる。地すべり移動判定では季節変化成分を考慮するとともに、観測点配置では基準点と移動点の標高差を小さくする必要がある。
- 担当:農業工学研究所・造構部・土木地質研究室
- 代表連絡先:029-838-7578

- 区分:研究
- 分類:参考
背景
GPSによる干渉測位ではcmオーダーの測位精度が得られるため、地すべり移動量観測手法として普及しつつある。干渉測位には、主に大気中の水分分布の不均一により電波速度が変化して生じる誤差が知られているが、水分分布の把握が困難なことから有効な補正法が確立しておらず、観測条件による具体的な誤差幅に関する情報がきわめて少なかった。本研究では測位結果の季節変化及び標高差による変化から、測位結果から移動判定を行う際に必要となる大気中の水分分布の影響を明らかにした。
成果の内容・特徴
- GPS衛星からの電波の速度遅延は、主に地表付近の大気中の水分により生じる。GPS受信機間隔が小さければ上空の水分分布は同様と見なされ、速度遅延の影響は無視できるが、受信機間隔が大きい場合や標高差が大きい場合は速度遅延の差が測位誤差となる。また、経時的に測位を行う地すべり移動量観測では、時間的に変化する大気中の水分分布の影響は無視できない(図1)。
- 群馬県下の大規模地すべり地形に、基準点から基線長約1.5~3kmの範囲に10点の移動点を配し、L1帯GPS電波を用いる1周波観測を行った。1999年9月の基線長を初期値とする基線長変動量の季節変化を把握するため、多年次データの年次をはずした観測月日に対して変動量をプロットした(図2)。基線長変動は回帰性を示すことから、地すべり活動ではなく、冬季に増大し夏季に減少する季節変化と考えられる。本事例では基線長に応じた公称誤差±6.5~8.0mmより大きな幅20mm以上の季節変化が認められた。
- 茨城県筑波山塊では2カ所の電子基準点を利用し、基線長を約10kmと一定にして基準点との標高差が変化するような測位点を選定し、1周波観測とともにL1帯およびL2帯GPS電波を用いる2周波観測を行った。図3に標高差に対する基線長の平均2乗誤差の2倍(2drms)を、図4に標高の2drmsを示す。図3では明瞭な傾向は認められないが、公称誤差を満たすのは2周波観測で標高差の小さい場合のみである。図4では標高の変動幅は標高差に応じて増大し、公称誤差を満たすのは2周波観測の標高差が小さい場合のみである。これらの結果から、標高差が150m程度であっても大気中の水分分布の影響により測位変動幅が公称誤差以上に増大する傾向を指摘できる。
- 上記の結果より、GPSによる地すべり移動量観測では移動判定の際に季節変化成分を考慮するか同時期のデータを比較するとともに、基準点及び移動点の標高差を小さくするように選点する必要がある。
成果の活用面・留意点
ここに示した誤差幅の値は調査地区及び調査機材に依存する可能性があり、各地区の誤差幅は予備調査等により把握する必要がある。
具体的データ

図1 干渉測位における大気中の水分分布の影響

図2 観測時期に対する基線長変動量
1周波型受信機仕様、観測時間1時間 1999年9月~2001年3月に9回観測

図3 標高差に対する基線長変動幅

図4 標高差に対する標高変動幅
L1:1周観測・解析(15回観測)、L1/L2:2周波数観測・解析(4回観測)
基準点92110:国土地理院、基準点93002:八郷、観測時間は1~2時間
1周波観測で変動幅が大きいのは、10kmの基線長では2周波観測による電離層補正が必要なため
その他
- 研究課題名:地すべり活動監視のための地表面変位及び地すべり面センシング技術の開発
- 中期計画大課題名:地震災害及び地すべりの要因並びに土構造物の安全性の解明とセンシング手法等の開発
- 予算区分:交付金研究・その他(受託)
- 研究期間:1999~2002年度
- 研究担当者:中里裕臣・黒田清一郎・奥山武彦・長束 勇・畑山元晴(農村振興局)
- 発表論文等:1)中里裕臣、農業土木におけるGPS利用技術(その4)-GPSを用いた地すべり調査-、農業土木学会誌、70(1)、47-53、2002.
2)奥山武彦、農業土木におけるGPS利用技術(その2)-ディファレンシャルGPSによる測位精度向上と現場調査への適用性-、農業土木学会誌、69(11)、1195-1200、2001.
3)中里裕臣・奥山武彦・黒田清一郎、GPSによる地すべり移動量観測に対する対流圏遅延効果の影響、第41回日本地すべり学会研究発表会講演集、213-214、2002.