魚類生態系に配慮した水田水路系における分断および迂回水路の評価法

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要約

魚類生態系の良好な維持管理のためには水路内における流れの連続性が重要である。流れの分断および迂回水路の有無を、水田および水路の配置を有向グラフのネットワーク問題として解析し、2点間を結ぶ最短経路・最短距離により評価する。

  • 担当:農業工学研究所・農村環境部・上席研究官
  • 代表連絡先:029-838-7677 Mail Address
  • 区分:研究
  • 分類:参考

背景

圃場整備事業が生態系(主として魚類)に与える影響の一つとして、落差工等による流れの分断がある。しかし、分断は構造物により生じるだけでなく、水路の泥上げ等により魚が通過できる水路が制限される場合もある。また、移動範囲の狭い魚種もある。このため、水路内の2点間を結ぶ最短経路および最短距離を算出し、水路の状況変化にともなう水路系の分断および迂回水路の有無を評価する考え方を提案する。

成果の内容・特徴

  • 魚類生態系に配慮して水田周辺域における水の流れを考える際の要素には、水田、用排水路、水口および落水口等がある。また、要素には魚の産卵場所や棲息点も含まれる。図1(a)の各要素を点および枝で表すと、図1(b)になる。
  • 図1(b)で示す矢印が移動可能方向である。用水路と水田間は往復できるが、水田と排水路間は、水田から排水路への一方通行であることを表している。図1(b)をもとに、魚の移動可能方向を考慮する有向グラフのネットワーク問題として解析し、2点間を結ぶ最短経路・最短距離を求める。
  • 図1(b)の例で、2点間A、Bを結ぶ最短距離を求める。各節点(○印)間の距離を10m(長い節点間距離は20m)として、最短経路および最短距離を求める。A→Bの移動経路は-で示す経路で、距離は70mである。一方、B→Aは排水路から水田への分断のため、移動経路は-で、距離は90mとなる。この値をもとに、水路系における分断の有無(断絶が生じる場合、距離は無限大となる)を確認する。
  • 圃場整備事業前後の湧泉間ネットワークへの適用例を示したのが図2で、図中の●印は湧泉である。整備前の湧泉箇所は8カ所、整備後は2カ所である。整備前の各湧泉間の最短距離を求めたのが表1である。これに対し、整備後では湧泉間A、Bの距離は無限大となり、解析範囲内での湧泉間のネットワークに分断が生じ、魚類の移動可能性の視点からの検討を要することが指摘できる。

成果の活用面・留意点

  • 水路系の分断、迂回水路の有無等を計画段階で事前に検討することができる。
  • 平面配置の変化を評価する指標であり、季節的な水深、流速、水路の底質等を考慮した指標ではない。

具体的データ

図1 水田と水路のネットワーク

その他

  • 研究課題名:水田圃場整備が水路系の空間多様性に及ぼす影響評価指標の策定
  • 関連する中期計画大課題名:水田及び農業水路が持つ生物相保全機能の評価及び水田を中心としたビオトープ・ネットワーク形成要件の解明
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:長利 洋、奥島修二
  • 発表論文等:長利 洋・奥島修二、農業水路における連続性の評価指標、第54回農土学会関東支部講要集、16-17、2003.