米国カリフォルニア州の渇水時水移転における水の多面的役割の保全
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要約
米国の渇水時水銀行制度の分析から用水の多面的役割に配慮した水移転の制度的特徴を明らかにした。他の利水・環境・社会に悪影響のある水移転を禁ずる法制度、移転可能な水の範囲を消費的水利用に制限する技術的運用、政府機関が水移転の審査と監視を行なう行政制度の組み合わせである。
- 担当:農業工学研究所・農地整備部・用水管理研究室
- 代表連絡先:029-838-7551

- 区分:技術及び行政
- 分類:参考
背景
河川審議会等において、水政策の一つとして経済原理を取り入れた水資源の再配分(水移転)の検討が必要とされているが、水市場(water market)での水移転と水利権の関係や水移転の環境影響に関する対策については十分研究されていない。そこで本研究では、水市場の代表的な事例であり、制度的な整備が進んでいる米国カリフォルニア州の渇水時水銀行(Drought Water Bank)の運用の仕組みを分析し、用水の多面的役割を保全するための水移転の制度的特徴を明らかにした。
成果の内容・特徴
- 水移転の原則:渇水時の短期間(1年以内)の水移転は、他の水利権者だけでなく、下流域の有益な水利用や野生生物の生息環境、灌漑農業の社会経済的効果を幅広く保全することが基本原則であり、これを実現するため以下の措置がとられている。
- 悪影響を防止する法制度:上記の原則を水規則として成文化し、他の利水者及び用水の多面的役割の受益者を水移転による影響から保護している(表1)。
- 水移転を制限する技術的運用:渇水時に主に移転されるのは水利権ではなく、実体としての水であり、その範囲は水循環において他の利水者に再利用されない蒸発散等の「消費的水利用」に制限される。遊休水利、水源への還元水、有用な余水利用は消費的水利用に含まない(図1)。移転可能な水量は、水利権者が選択する休耕等の方法による消費的水利用の減少分であり、取水量の変化とは別に算定される(図2、表2)。
- 水移転を監視する行政制度:水の出し手は移転による負の影響がないことを文書で申し立て、州政府はそれを審査し移転後も実際の水利用を監視する。これにより水移転の影響から他利水や多面的役割を保全するという行政制度の実効性を確保している。
成果の活用面・留意点
水政策の検討や指標作成の参考となる。なおカリフォルニア州では畑作中心で作物選択の幅が大きく、農家は作付け前に水利用パターンの変更や水移転を含めた経営判断が可能である。一方、わが国の場合、渇水は一般に水稲の栽培期間中に発生し予測困難であるため、このような事前の判断は不可能である点に留意する必要がある。
具体的データ



その他
- 研究課題名:水収支予測モデルを使った用水再編に伴う影響評価手法の開発
- 関連する中期計画大課題名:水利調整と用水再編手法の開発及び利水構造の解明
- 予算区分:交付金研究、その他(受託)
- 研究期間:2001~2003年度
- 研究担当者:友正達美、藤本直也、吉村亜希子、山岡和純
- 発表論文等:友正達美・藤本直也・吉村亜希子、水資源取引システムに関する分析枠組み、農業土木学会関東支部講要、118-120、2002.