畑土壌の潜在的な硝酸性窒素除去能力

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要約

畑土壌(関東ローム)の潜在的な硝酸性窒素(NO3-N)除去能力を測定したところ、深さ60cmの下層の土に比べて上部の土(深さ0~30cm)が大きなNO3-N除去能力を示した。畑土壌をNO3-N除去に適用するには、長期間湛水状態として嫌気条件を形成し、有機物も供給して脱窒反応を活性化させる。

  • 担当:農業工学研究所・農地整備部・畑整備研究室
  • 代表連絡先:029-838-7553 Mail Address
  • 区分:研究
  • 分類:参考

背景

公共水域の高濃度の硝酸性窒素(NO3-N)汚染は、水環境の悪化とともに人の健康への影響が懸念される。NO3-Nの流出源の1つとして畑地からの肥料中の窒素の溶脱がある。本研究では、畑整備の観点から畑地及びその周辺部にNO3-Nを除去する機能を付加することによって畑地からNO3-N流出量を削減することを指向し、その端緒として畑土壌が有する潜在的なNO3-N除去能力を測定し畑土壌の適用方向を考察した。

成果の内容・特徴

研究所内の畑地の土壌(関東ローム)を、表土、深さ30cm(以下、「中層土」)及び深さ60cm(以下、「下層土」)の3つに分けて採土して実験に用いた。実験は、メタノール添加及び未添加の2つの条件を与えて実施した。メタノールは、微生物が容易に利用できる有機物として添加した。

  • 脱窒反応の発現条件の1つである嫌気条件の形成の難易を推察するため、土壌を湛水させた場合の酸素消費速度を20°Cで測定した。図1の各線の傾きが示す土壌の酸素消費速度はメタノール添加の場合には大幅に増加したが、測定開始当初約1~2日間はメタノールの添加の有無によらず酸素消費速度は小さかった。
  • 土壌約200gを20°Cで20mg/lのNO3-N濃度の硝酸カリウム水溶液300mlに浸漬し、NO3-N除去速度を測定した。
    各土壌とも、メタノールを添加することでNO3-N除去速度は増加したが、表土及び中層土に比べて下層土のNO3-N除去速度は1/4程度と小さかった(図2)。また、各土壌とも湛水当初は、メタノールの添加の有無によらずNO3-N除去速度は小さかった。
  • 以上の実験結果を基に畑土壌をNO3-N除去に適用する方向をまとめると、次のとおりである。また、その具体例を図3に示す。
    1) 畑土壌を一時的に湛水状態にしても、NO3-N除去能力の発現は困難であり、畑生産に支障なく、継続して湛水状態に置くゾーンを設ける必要がある。
    2) 湛水状態を維持するゾーンには、NO3-N除去能力の比較的大きい畑上部の土壌を混入するのが有利である。
    3) 湛水状態に置くゾーンには、嫌気条件の形成と脱窒反応の活性化のため有機物の供給が必要である。

成果の活用面・留意点

本調査結果を畑地整備に適用するための具体的な工法の開発が、今後の課題である。

具体的データ

図1 畑土壌の酸素消費量
図3 畑土壌の硝酸性窒素の除去への適用方向

その他

  • 研究課題名:畑地帯の汚濁負荷流出機構と排水浄化システムの適用方式の解明
  • 関連する中期計画大課題名:水質・生態系保全のための条件解明と施設計画手法の開発
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:1999~2002年度
  • 研究担当者:山岡 賢、凌 祥之、齋藤孝則、小泉 健、吉田弘明(農村振興局)
  • 発表論文等:山岡 賢・凌 祥之・Stephen ABENNEY-MICKSON・齋藤孝則、畑土壌の潜在的な硝酸態窒素除去能力の測定、農業土木学会論文集、225、43-53、2003.