ラビリンス堰による曝気機能の向上

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要約

ラビリンス堰を越流する水の曝気速度は、従来の四角堰よりも大きく、クレストが長くなるにしたがって増加する。エネルギー、下流水深、クレスト長を変数にもつ関数から構成される新たな曝気予測式は、この現象を良好に近似する。

  • 担当:農業工学研究所・水工部・水源施設水理研究室
  • 代表連絡先:029-838-7564 Mail Address
  • 区分:研究
  • 分類:普及成果情報

背景

農業水利系の生態系保全が重視される今日、用排水路における酸素移動現象の評価は重要な問題である。一般に、再曝気による酸素供給では、用排水の流下に伴う流れ表面での酸素移動のほか、落差工や堰などの水利構造物による効果が大きい。特に、ラビリンス堰は、平面的に折れ曲がった堰形状をもち、単位水路幅当たりのクレストが極めて長いので、用排水に効率よく酸素を取り込む施設として、四角堰より曝気機能の向上が期待される。

成果の内容・特徴

  • 水路幅50cm,全長12mの木製循環式水路の中央に、図1のアクリル製ラビリンス堰を設置し、表1の条件で再曝気実験を行った結果、次のことが明らかとなった。
    1) 溶存酸素濃度の経時変化を図2のように整理したところ、ラビリンス堰では、全幅四角堰より曲線の立ち上がりが急になり、曝気速度は増加する。
    2) ラビリンス堰の曝気速度は、クレストが長くなるに従って増加するが、クレスト長が水路幅の1.6倍程度になると、曝気速度は上限に達する(図2(a))。
    3) ビリンス堰の曝気速度は、流量が大きくなるほど増加する。また、同一流量においては、落下高さが大きくなる(下流水深が小さくなる)につれ、曝気速度が増加する(図2(b)~(d))。
  • 次のラビリンス堰の曝気予測式を提案した

                    KLaV=C・Eη・Hζ・f(L/B) E=ρq(gh+u2/2)

    ここに、KLa:総括酸素移動容量係数(h-1)、V:単位幅当たりの水の体積(m3)、E:単位幅当たりのエネルギー(J・h-1・m-1)、H:下流水深(m)、f(L/B):クレスト長から決まる無次元関数、L:クレスト長(m)、B:水路幅(m)、C,η,ζ:パラメータ、ρ:水の密度(kg・m-3)、q:単位幅当たりの流量(m2・h-1)、g:重力加速度(m・s-2)、h:下流水面から堰の越流水面までの高さ(m)、u:堰の接近流速(m・s-1)である。パラメータの同定結果を図3に、実験値と予測値の比較を図4に示す。予測式の適合度は良好であった。

成果の活用面・留意点

本成果は、表1と図1に示す水理条件と実験スケールにおいて得られた結果であり、曝気予測式が適用可能な現象のスケールについては、今後の検討課題である。

具体的データ

表1 実験ケース
図1 ラビリンス堰模型

その他

  • 研究課題名:頭首工周辺における生態系多様性の保全、向上技術の開発
  • 関連する中期計画大課題名:農業用施設の構造的・水理的な安定性診断手法等の開発
  • 予算区分:委託プロ(自然共生)
  • 研究期間:2002~2006年度
  • 研究担当者:髙木強治、小林宏康、浪平 篤
  • 発表論文等:1) 髙木強治・浪平 篤・小林宏康、ラビリンス堰の再曝気効果、第54回農業土木学会関東支部大会講演会講演要旨、47-49、2003.
                      2) 髙木強治・浪平 篤・小林宏康、ラビリンス堰における酸素移動、水環境学会誌、27(2)、117-123、2004.