粒子法による管内付着物の生成予測シミュレーション

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要約

農業用パイプライン施設への付着物(炭酸カルシウムスケール)の生成と溶質の移動を粒子法による流れ解析と同時に計算するシミュレーションである。これにより、付着物の生成量と付着箇所の予測が可能である。

  • 担当:農業工学研究所・水工部・水路工水理研究室
  • 代表連絡先:029-838-7566 Mail Address
  • 区分:研究
  • 分類:参考

背景

農業用水の水質によって農業用パイプライン施設の内壁面に炭酸カルシウムによる汚れ(以下、スケールと呼ぶ。:Scale)が付着する可能性が危倶された。結晶生成には遊離炭酸の濃度の影響が大きいため、自由水面付近でのスケールの成長速度は比較的速い。粒子法における(1)自由水面の追跡が容易であることと、()空間一階微分近似による数値拡散が無いという長所を水質解析に利用して、スケールの生成予測シミュレーションを行うことを目的とした。

成果の内容・特徴

  • スケールはカルサイトと呼ばれる結晶である(図1)。結晶は水中と施設壁面において生成する。その生成過程は、水中では不均一核生成であり、施設壁面では付着結晶成長であると仮定した。問題視されるスケールは施設壁面上で生成される結晶である。
  • 流れの運動方程式、溶質の質量保存式およびエネルギー保存式を、粒子間相互作用式に変換して、粒子法による解析を行った(図2)。
  • S. H. Chanの結晶成長速度式にG. Atkinsonの指摘を考慮して、自由水面付近と水中における結晶成長速度式Rを導出した(図3)。
  • 数値解析における圧力の振動を抑制する方法として以下の2つの対策を試行し、低減することができた(図4)。
    1) 粒子数密度を、粒子間距離が粒径の2.1倍から4倍の同心円に挟まれた領域をx軸とy軸で4分割した領域で監視し、何れかの領域が閾値以下ならば、自由水面とする。
    2) 初期粒子配置の方法を正方格子ではなく、千鳥格子にする。
  • 農業用パイプライン施設において唯一自由水面があり、スケールの生成が危倶されるスタンド式分水工について解析を行った。その結果、スケールの成長速度は鉛直方向分布があり、自由水面に近いほど多かったが、その大きさは微小であった。水需要による水位変化を考慮して長期間の供用後のスケールの厚さを予測したが、通水に問題ない厚さであることが明らかになった(図5)

成果の活用面・留意点

解析例は、カルシウムイオンの濃度が高い地下ダムを取水源とする特殊な場合である。それ以外の場合においては、水質調査においてカルシウムイオン濃度が約100mg/L以上であれば、スケール生成の検討が必要となる。

具体的データ

図1 カルサイトの電顕写真
図4 解析における圧力振動の抑制
図3 スケール成長速度式

その他

  • 研究課題名:パイプライン系におけるカルシウムスケール生成予測手法の開発
  • 関連する中期計画大課題名:農業用施設の構造的・水利的な安定診断手法等の開発
  • 予算区分:交付金研究、その他(受託)
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:田中良和、中 達雄、向井章恵、樽屋啓之
  • 発表論文等:田中良和・向井章恵・樽屋啓之、MPS法による炭酸カルシウムスケールの生成予測手法の開発、第16回計算力学講演会講演論文集、979-980、2003.