水中潜行浮上式貯水槽天蓋の天蓋保護水制御システム

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要約

天蓋保護水量の制御に改善の必要があった水中潜行浮上式貯水槽天蓋は、新たに開発した天蓋保護水の余剰水自動排水制御システムにより天蓋保護水量を適正に維持することも可能となり、農業用貯水槽に新たな負荷をかけない、安価で、維持管理が容易な技術となる。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・施設機能研究室
  • 代表連絡先:029-838-7572 Mail Address
  • 区分:技術及び行政
  • 分類:普及成果情報

背景

屋根なしの農業用貯水槽において、木葉などのゴミの侵入やアオコの発生を防ぐため、水中にGM(ジオメンブレン)を潜行して浮上させ、躯体に新たな負荷をかけない浮上式貯水槽天蓋を開発した。本工法では、GMを保護している天蓋保護水が降雨により増量したときには、所定の位置に設けた開口部から天蓋保護水の余剰水を貯水槽外へ排水することを想定していた。しかし、この機能が適切に稼働しない場合、貯水量の減少を引き起こす危険性があった。そこで、天蓋保護水の増量とともに天蓋に取り付けた錘が沈降する現象に着目し、天蓋保護水の余剰水自動排水制御システムを開発した。

成果の内容・特徴

  • 構造(図1参照)

    1) 貯水槽全体をEVA系GMで覆い、GM上面にGMの耐久性を確保するための天蓋保護水層を設けた水中に浮かぶ天蓋構造となっている。また、天蓋保護水層より露出する貯水槽側壁天端付近はEPDM系GMをさらに上から覆い2重構造とした。
    2) 天蓋形状を安定させるため、中央には浮き、浮きと側壁の間には錘を付設している。また、浮きには注水時に貯留水に連行される空気を排除するための排気孔を付設している。
    3) 天蓋保護水を適正量に維持するために天蓋保護水余水吐を付設し、余水吐と錘とをくさり等の連結材で繋ぐことにより、錘の沈降に追随する余水吐構造とした。
    4) 設置時の施工性や維持管理の際の一時撤去の容易さを確保するため、底版と側壁面とをファスナーによる分割型とした。

  • 特徴

    図2に示すように天蓋保護水の増量とともに錘位置が沈降する。この原理を利用し図3の天蓋保護水の余剰水自動排水制御システムを考案した。本システムは、適正な天蓋保護水量を設け、図3(a)の貯水の満水時に、天蓋保護水面と余水吐口が同じ高さになるようにセットする。その時、連結材に引張力が発生しフロートが連結材を介して錘を吊り上げバランスする。その後、図3(b)の降雨により天蓋保護水の適正量を超える余剰水が生じた時には錘が沈降することから、連結されたフロートが水没し、余水吐口から余剰水が排水される。なお、図4に示す室内実験において、表1からも明らかなように本システムの安定的な稼働を確認した。

成果の活用面・留意点

天蓋保護水の適正量の決定にあたっては、その水量の増減が本体貯水量へ影響を与えることから、天蓋GMを覆う水量の確保、寒冷地域においては結氷厚以上の水深の確保、強風地域においては強風時にも天蓋形状が安定する水深の確保、等を考慮した最小量とする必要がある。

具体的データ

図1 水中潜行浮上式貯水槽天蓋の概要図

その他

  • 研究課題名:水中浮上式貯水槽天蓋の力学的挙動の解明
  • 関連する中期計画大課題名:材料、構造、施設機能の評価診断手法の開発
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:石村英明(関東農政局より併任)、長束 勇、森 充広、渡嘉敷勝、藤本直也(国際水管理研究所)、直江次男(関東農政局)、天蓋保護水制御機構共同研究組合
  • 発表論文等:1) 長束 勇・石村英明・渡嘉敷勝・森 充広・宮田哲郎、水中潜行浮上式貯水槽天蓋の挙動安定化に関する検討、ジオシンセティックス論文集、18、27-32、2003.
                      2) H. Ishimura, I. Natsuka, M. Mori, M. Tokashiki & T. Miyata, Development of a Submerged Floating Canopy System for Farm Ponds using Geomembranes, GeoAsia 2004(859-865).
                      3) 長束 勇・室井藤夫・宮田哲郎、天蓋保護水制御機構を有する貯水槽、特願2002-187363.