緩い砂質土のため池堤体の浸透による変形・崩壊挙動とシミュレーション
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要約
築造年代の古いため池堤体は、緩い砂質土で築堤されていることが多く、浸透に伴う飽和コラプスや引張クラックの発生によって下流斜面の安定性が大きく低下する可能性がある。また、浸透によって飽和コラプスが発生する複雑な堤体の変形を飽和不飽和浸透連成解析によって良く再現することができる。
- 担当:農業工学研究所・造構部・土質研究室
- 代表連絡先:029-838-7575

- 区分:研究
- 分類:参考
背景
築造年代が古い農業用ため池は、締固めの不十分な砂質土堤体が多く、豪雨時にすべり破壊が発生する事例が毎年のように報告されている。緩い不飽和砂質地盤に水が浸透すると、飽和コラプス等の発生を伴い、複雑な変形挙動を示すことが知られている。本研究では、模型実験を行い、緩い砂質土の模型堤体に浸透が作用するときの変形・崩壊挙動を明らかにした。また、向後らによって提案されている不飽和土を対象とした飽和不飽和浸透連成解析を用いて、模型実験のシミュレーションを行い、解析手法の妥当性について検証する。
成果の内容・特徴
- 図1に実験に用いた模型堤体の形状およびセンサーの配置を示す。模型の材料は、初期含水比6.8%、相対密度1.0%の緩詰めの霞ヶ浦砂である。PS1~8にテンシオメータ、DH1~DH4に水平方向の変位計、DV1~DV5に鉛直方向の変位計を設置し、実験中の間隙水圧、変位を測定した。
- 緩い砂質土堤体の場合、浸透に伴って天端及び法肩部分が上流側に傾くように変形・沈下し、下流法尻部分は法先方向へと変形することを明らかにした。更に、変形に伴って、引張クラックが生じ、クラックを起点として下流法先を通るすべり破壊に進展することを明らかにした(図2上段)。
- 不飽和土を対象とした飽和不飽和浸透連成解析を行った結果、間隙水圧については斜面表層部で若干の誤差があるものの、全体として実験結果を再現することができた。
また、模型実験から得られた変形挙動を良く再現できることが明らかとなった(図2中段および下段)。浸透によって、飽和コラプスによる体積圧縮現象やそれに伴う下流斜面法肩の引張応力が発生することが明らかとなった(図3、図4)。
成果の活用面・留意点
本解析手法によって、緩い砂質土を対象とした降雨時や貯水位上昇時のため池堤体の安定性を精度良く評価することが可能である。今後は、降雨浸透の境界条件を明らかにしていく必要がある。
具体的データ


その他
- 研究課題名:貯水位変動によるため池崩壊のメカニズム解明
- 関連する中期計画大課題名:豪雨特性やため池崩壊機能の解明及び防災予測技術の開発
- 予算区分:交付金プロ(集中豪雨)
- 研究期間:2001~2003年度
- 研究担当者:堀 俊和、毛利栄征、松島健一
- 発表論文等:1) 堀 俊和・毛利栄征・松島健一・青山咸康、豪雨による農業用ため池の破壊原因と被災の特徴、農業土木学会論文集、218、127-137、2002.
2) 堀 俊和・毛利栄征・向後雄二、緩い砂模型斜面の浸透による崩壊実験と飽和不飽和有限要素解析、第38回地盤工学研究発表会、1283-1284、2003.