太陽光発電で運転する低コストふん尿スラリー撹拌曝気装置

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要約

家畜ふん尿の地下貯留槽に挿入した撹拌筒で送気・撹拌を行う撹拌曝気装置は消費電力が少なく、太陽光発電による独立運転を行うことができる。製作費、維持費も従来型より安価である。撹拌曝気処理によってスラリーの粘度・臭気が低減し、圃場還元が容易になる。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・土木地質研究室
  • 代表連絡先:029-838-7576 Mail Address
  • 区分:技術及び行政
  • 分類:普及成果情報

背景

ふん尿スラリーを圃場還元している畜産農家では、スラリーの臭気ならびに作業性の改善手段の要望が強い。スラリー処理は貯留槽での滞留時間が数日あるので、運転の不安定性を伴う太陽光発電の利用に適する。装置の省電力化と簡素化で設備費の縮減を図る。

成果の内容・特徴

  • 図1に示すように貯留槽に挿入した全長2mの撹拌筒内でらせん状の羽根を60rpm以下の低速で回転させながら送気する方式により、少ない消費電力でスラリーに送入空気を混入させるミクロ撹拌と、貯留層内のマクロ撹拌を行うことができる。
  • 本装置は1.1kW程度の太陽光発電だけを電源とするので、運転状況は日射量に依存する。貯留槽はスラリーが数日かけて通過する容量をもち、運転の不安定さを補う緩衝機能を発揮する。茨城県内で行った試験では、図2に示すように、晴天日に7.5時間の稼働で装置を設置した貯留槽の容量の13倍にあたる量の撹拌を行うことができた。
  • 畜舎が南北棟である場合には、畜舎南側に図3のような簡易屋根を設けて太陽電池を設置することによって、東(西)向き屋根にのせるよりも多くの電力が得られるとともに、屋根の下を雨よけ作業場所として使うことができる。
  • 可傾式架台によって、地下貯留槽に50cm四方の開口部があれば設置することができ、保守のために容易に引き出すことができる。撹拌筒やフレームをステンレスで製作し、ナイロン製の撹拌羽根を用いることによって強腐食性のスラリーに浸漬しても十分な耐久性をもつ。
  • 両軸型直流モーター1台で撹拌機とブロワーを駆動する方式を採用し、太陽光発電の直流を交流に変換するインバーターを使用しないシステムにするとともに、汎用部品で構成することで低コスト化を図った。製作設置費は140万円程度と見込まれる。
  • 撹拌曝気によってスラリーの粘度が低下するとともに(図4)、農家から圃場散布時の臭気が低減したとの評価を受けた。バキュームタンカーによる吸い出し作業時間が半減する省力効果は、30頭規模の経営で約9,000円/月と見積もられる。作業性、臭気の改善により、スラリーの圃場還元が容易になる。

成果の活用面・留意点

本装置は比較的小規模経営でふん尿混合スラリーを圃場還元している酪農家での使用に適している。日射量の地域差については太陽光発電のための基礎データなどを参照する。

具体的データ

図1 貯留槽から引き出した状態の撹拌暖気装置
図4 実証試験におけるスラリーの粘度の変化

その他

  • 研究課題名:風力・太陽光併用型低コストスラリー処理システムの開発
  • 関連する中期計画大課題名:有機物循環利用のための処理技術及び自然エネルギー利用技術の開発
  • 予算区分:委託プロ(畜産エコ、バイオリサイクル)
  • 研究期間:2000~2003年度
  • 研究担当者:奥山武彦、大井節男、小綿寿志
  • 発表論文等:「撹拌曝気装置」特許出願中(特開2003-1032902)、奥山武彦・小綿寿志・大井節男、太陽光発電による家畜糞尿処理装置の開発、農業土木学会関東支部大会講演会講演要旨、4-6、2002.