鉄筋コンクリート(RC)農業用水路のひび割れ形成機構と中性化の関係

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要約

北陸地域で調査した農業用水路の主要なひび割れの原因は乾燥収縮による。そのため,割れ目密度と割れ目間隔は供用年数とは関係しない。灌漑期における水路水面以下のひび割れのない部分の40年間の中性化は,公表されている回帰式と提示する対数回帰式でも近似できる。しかし,ひび割れ線上の中性化は理論式より数倍深く進行している。

  • キーワード:ライフサイクルコスト,農業用水路,ひび割れ,乾燥収縮,中性化
  • 担当:農工研・農村総合研究部・地域資源保全管理研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7200,電子メールimaizuma@affrc.go.jp
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究 普及

背景・ねらい

土木構造物のライフサイクルコストLCC (Life-Cycle Cost)に関する研究は,橋梁や道路舗装を対象とした研究が先行しており,一部では研究結果が実務にも適用されている。しかし,農業水利施設のLCCの研究は緒に就いた段階であり,LCCの基礎となる劣化式の開発が求められている。劣化予測の基礎となるデータは,コンクリート表面におけるひび割れの発達状況(幅,長さ,頻度等)や錆汁,はく離・はく落の様子を5段階程度に区分した評価基準に基づいて,目視で行われる点検データである。ひび割れは,外観は同じであるが,成因により初期ひび割れと供用開始後のひび割れに分類される。更に後者のひび割れは構造外力に起因するものと材料劣化に起因するものに分けられる。橋梁の分野では,経年的にひび割れが発達する中性化や凍害などの材料劣化に起因するひび割れが劣化の主要な原因とされている。しかし,農業用水路においてもこの考えが成り立つかの情報が不足している。そのため,北陸地域のN土地改良区が管理している供用8年~40年の水路において,主要な劣化要因であるひび割れの形成状況を調査するとともに,中性化深さの予測式を検討した。

成果の内容・特徴

  • 観察されたひび割れの多くは,水路上部面を胴切りにし,水路上部から下方にほぼ垂直に伸びる形態を示す。図1は,S水路の供用37年と8年の水路のひび割れ状況を示している。
  • 供用37年水路のひび割れは,密度が1.2本/m,平均長さ0.45mで,右岸と左岸のほぼ同じ位置に発達し(図2),ひび割れの間隔は,約0.8mに集中している(図3)。供用8年の水路のひび割れは,密度が2.2本/mで,割れ目間隔は0.3mであるが,平均長さは0.03mと短い。これらの特徴は,ひび割れが乾燥収縮によるものであることを示す。
  • 供用8年,21年,37年,39年,40年の5水路を選定し,灌漑期の水面の上下部において,ひび割れが無い部分と割れ目線上で,簡易中性化深さ試験に中性化深さを測定した。灌漑期水面以下のひび割れのない部分の中性化深さは,経験式:

    中性化深さ経験式(土木学会:コンクリート標準示方書)

    (y:中性化深さ(mm),t:供用期間(年)W/B:有効水結合材比,R:環境の影響を表す係数)で近似できる他,y = 0.3001 t0.8115(R2=0.97)の回帰式でも近似できる。しかし,割れ目線上では,中性化は理論式より数倍深く進行している。

成果の活用面・留意点

供用期間が40年以上と長期になると,中性化の進行は,公表されている式と提示する対数回帰式では,全く異なることに注意が必要である。公表されている式は,対象となる構造物と同じ,あるいは類似した諸条件を対象とした式がない場合に,用いてもよいとされている式である。

具体的データ

図1 S水路の供用37年と8年水路におけるひび割れの分布状況

図2 供用37年水路の左右岸のひび割れ位置の関係図3 供用37年水路の左右岸のひび割れ間隔のヒストグラム

図4 中性化深度と供用年数の関係

その他

  • 研究中課題名:農業水利施設の機能診断・維持管理及び更新技術の開発
  • 実施課題名:LCC低減のための住民参加型の施設の点検・モニタリング手法の開発
  • 課題ID:412-a-00-004-00-I-06-4402
  • 予算区分:交付金プロ(資源保全)
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:今泉眞之,本間新哉,北村浩二,加藤敬
  • 発表論文等:インフラ資産のアセットマネジメントに関する研究レビューと農業水利施設を対象とした研究の方向性,
                      農村工学研究所技報,206,pp.83-100