地すべり調査のための深度別間隙水圧測定と検層用観測孔の作成方法

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要約

遮水帯と開口部を組合せた構造をもつ観測孔とパッカー付きゾンデにより、地すべりと関係深い間隙水圧を深度別に測定できる。深度によって異なる水頭分布や降雨応答の解明、深度別水質分析のための採水が可能であるとともに、全層を対象とした検層を行うことができる。

  • キーワード:地すべり、ボーリング、水理地質構造、帯水層、間隙水圧、孔内検層
  • 担当:農工研・施設資源部・基礎地盤研究室
  • 連絡先:電話029-838-7576、電子メールokuyama@affrc.go.jp
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政 普及

背景・ねらい

地すべり斜面など複雑な透水構造をもつ地盤では地下水圧や浸透状況が深度によって異なるが、一般的なオールストレーナ観測孔では孔内流が発生するために地下水の賦存状況を正しく把握することができない。また、複数深度にピエゾメータを設ける方式の観測孔は検層に使用できない。多深度に遮水帯を備えたボアホールとパッカー付ゾンデを組み合わせて使用することによって、任意深度における水頭測定や採水を行うことができる。保孔管の開口率を大きくすることで全層を対象とする電気的検層や温度検層も可能である。

成果の内容・特徴

  • 観測孔の保孔管(内径50mm程度)に1m毎に無孔部を設け、地盤との間に吸水膨張性素材による遮水材を取り付けてある。有孔部の開口率を5%と大きくすることで、全層にわたる電気的検層、温度検層等が可能である(図1)。
  • 観測用ゾンデは水圧センサーと多段ゴムパッカー、採水用ポンプから構成される。保孔管の無孔部位置でパッカーを展張させて上下を遮断した1m区間で水圧測定、採水等の試験を行うことができる。
  • 層別水頭差によって孔内の深度方向に生じる水流を測定するための流量計は、遮水部でパッカーを展張させて水流を内部の小型流量計に集中させることで従来法より約10倍高感度になり、最小1mm/秒程度の孔内流速測定が可能である(図2)。深度別の水頭と孔内流量から地下水の賦存状況を推察できる。
  • 亀裂に富む結晶片岩斜面における地すべり地地下水流動解析調査(関東農政局2003~2005年)で本法による観測を実施した。A孔で図3に示すように電熱式温度検層によって深度13.5m付近に流動層が見出された。孔内水位以下でも静水圧分布にならず、孔底近くの透水性が大きい層で水頭が低下している。孔内水位は深いが、それより上部の強風化岩層内に正水圧が生じていて孔内流量が発生していることから、浅部風化層内にも地下水が賦存していることが明らかになった。また、降雨に応じた深度別水頭変動の実態を捉えることができた。
  • 同じくB孔において本システムによって深度毎に採水した試料は、パッカーを用いない開放状態で採水した試料より、深部の地下水ほど還元的で電導度が高くなる傾向を明瞭に示していた(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 地すべり対策では見かけの地下水位でなく、すべり面に作用する間隙水圧を評価することが重要である。
  • 孔壁が崩れにくい岩質地盤に適する。遮水用の吸水膨張性素材から微量の塩分が溶出するので、施工直後に水質分析を行う場合は注意する。

具体的データ

図1 区間遮断構造の観測井とパッカー付きゾンデ図2 孔内流量測定用ゾンデ

図3 温度検層と水頭測定の結果(A孔)

図4 孔内流量と水質測定の結果(B孔)

その他

  • 研究中課題名:地域防災力強化のための農業用施設等の災害予防と減災技術の開発
  • 実施課題名:地すべり対策地下水排除工の機能評価と計画手法
  • 課題ID:412-c-00-008-00-I-06-6801
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:奥山武彦、黒田清一郎、有吉 充
  • 発表論文等:奥山武彦・大塚文哉・菊池茂史・時田剛弘・黒田清一郎・有吉 充(2007)、
                      深度別地下水調査のための区間遮断構造ボアホール、日本地すべり学会誌43(5)、pp.57-61