英国のパートナーシップ方式による流域環境管理

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要約

マージー川流域キャンペーンはパートナーシップ方式による流域環境管理の実験事業として1985年に創設された。政府から運営費交付金が支給され、それが安定的運営の基盤になるとともに、企業やEUからのプロジェクト費調達の呼び水となっている。

  • キーワード:パートナーシップ、流域環境管理、運営費交付金、プロジェクト費
  • 担当:農工研・農村計画部・地域計画研究室、技術移転センター
  • 連絡先:電話029-838-7548、電子メールfukuyo@affrc.go.jp
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政 参考

背景・ねらい

わが国でも、近年、NPO等が核となり、行政や企業とパートナーシップを組みながら地域資源管理や環境再生に取り組む事例が数多く見られるようになった。こうした事例で問題となっているのが活動資金の不足である。中でも事務局の人件費、事務所の賃貸料といった団体を運営するための基本的資金の不足が、我が国でパートナーシップ方式を推進する上でのボトルネックになっている。そこで、英国政府が財政的にバックアップした実験事業として世界的にも大変ユニークな英国マージー川流域キャンペーン(Mersey Basin Campaign 以下、MBC)の事例分析から、英国のパートナーシップ方式による流域環境管理の実態を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • マージー川流域の環境再生を目的としたMBCは、1981年にリバプールで起きた暴動をきっかけに1985年に英国政府の実験事業として創設された。流域環境の汚染や荒廃を治安や人心の乱れの原因と考えたためである。(MBCの活動地域は図1参照)
  • MBCは、全体を統括するMBC評議会(役員会)、事務局、チャリティ団体(宝くじ基金等の受け皿)、小流域イニシャティブ(River Valley Initiatives、以下、RVIs、図1の①~⑲)、諮問グループで構成される(図2)。
  • MBCの活動内容は、下水道網の再整備や液体酸素注入事業(写真1)といったハード事業から、ステークホルダーマップづくり、トンボ賞授与といったソフト事業まで多様である。また小流域単位(RVIs)でもボートによる水上ゴミ拾いを行ったり、流域の一部を学校に里親になってもらったりするなど、独自の活動を展開している。
  • MBCの資金源は図3のとおりである。政府から人件費等相当分の運営費交付金が支給される。また行政機関とEUからのプロジェクト費にはマッチング(補助額に見合った自己資金)が要求されるが、ボランティアの活動時間が金銭換算されて、マッチングの自己資金として計上される。
  • 運営費交付金の「外部資金の呼び水効果」は次のとおりである。①政府から交付金を受けている団体ということで社会的信用が高まる。②企業やEUにとっては、提供した資金が団体の人件費や備品に使われることが無いため、安心して資金提供できる。③外部資金を獲得するために企画担当の職員を雇用できる。④当該プロジェクトにかかわる職員の人件費相当分をプロジェクト費(外部資金)のマッチングファンドとして使用できる。

成果の活用面・留意点

  • 運営費交付金の意義、ボランティア労働の金銭換算などは、多様な主体による資源管理を推進するための施策を講じていく場合の参考になる。
  • 英国でも運営費交付金が支給される団体は限定されている。しかし、わが国でも良く知られているグラウンドワークにおいても、中核となるグラウンドワーク・トラストには運営費交付金が支給されている。

具体的データ

図1 MBCの活動地域

図2 MBCの組織構造

写真1 液体酸素注入事業図3  MBCの資金源

その他

  • 研究中課題名:農村地域の活力向上のための地域マネジメント手法の開発
  • 実施課題名:新たな流域圏環境管理方式の解明と支援手法の開発
  • 課題ID:413-a-00-003-00-I-06-7304
  • 予算区分:委託プロ(自然共生)
  • 研究期間:2002~2006年度
  • 研究担当者:福与徳文、八木洋憲、筒井義冨
  • 発表論文等:福与・八木・筒井・三橋・鎌田(2005)「英国のパートナーシップによる流域圏環境管理
                       -マージー川流域キャンペーンの事例から-」農工研技報、203、pp.1-8