階段式魚道におけるウグイの遊泳行動の解明と流況予測手法

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

実物規模模型実験で得られた階段式魚道における流量変化に伴う各プール内のウグイの遊泳行動と、新たに開発した自由水面変動を伴う乱流の数値解析手法により、横断方向に同一形状の隔壁を有する階段式魚道を設計する場合、その流況とそれに対応したウグイの遡上行動を予測することができる。

  • キーワード:階段式魚道、ウグイ、遊泳行動、流況予測
  • 担当:農工研・施設資源部・水源施設水理研究室
  • 連絡先:電話029-838-7564、電子メールnamihira@affrc.go.jp
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政 参考

背景・ねらい

階段式魚道は我が国で最も歴史が古く、建設数も多いが、現場では十分に機能していないものも散見される。その理由の一つとして、魚道内の流況と魚類の遊泳行動の関係が十分に解明されていないことが考えられる。このため、3プールからなる実物規模の階段式魚道模型における流量変化に伴うウグイの遊泳行動を観測した。また、設計段階で階段式魚道内の流況を精度良く、かつ効率よく予測する手法は確立されていない。このため、新たに開発した自由水面変動を伴う乱流の数値解析手法の開発を試みた。

成果の内容・特徴

  • プール内の流況と魚類の遊泳行動の関係を解明するため、模型内の全て(3段)のプール内の流況およびウグイの遡上経路を、複数の流量条件において観測した(図1)。その結果、一定の流量であっても、最上流のプールでは流速が他のプールより大きく、ウグイの遊泳も困難であり、遡上に失敗する確率が高くなった。
  • 図1(a)のように主流が隔壁やプール底を沿う場合、プール内ではウグイは常に上流を向いて定位し、遡上に成功する確率も比較的高かった。一方、図1(b)のように主流がプールに対して斜めに突入する場合、主流の下側の小さな渦の周辺で定位するとウグイは下向きまたは下流向きとなり、遡上に失敗して下流に流される確率が高くなった。なお、図1(a)の条件は一般に適切と考えられる越流水深10cmであり、図1(b)の条件は図1(a)より越流水深が5cm高い場合である。プールの大きさにもよるが、越流水深数cmの変化であっても魚類の遊泳行動に及ぼす影響は大きいため、設計段階における流況予測の重要性は高いことが再確認された。
  • 隔壁天端の円弧形状を正確に表現するため一般座標で格子を生成し、時間平均流れを解として得るためレイノルズ平均流れの方程式および標準型k-εモデルを基礎式として用い、数値粘性の影響を極力排除するため対流項の離散化にはTVDスキームを適用し、水面変動を評価するためVOF法を用い、乱れの激しい流れも安定して解けるように標準型k-εモデルに改良LKモデルとDurbinモデルを併用した数値解析手法を開発した。この手法を用いれば、流量すなわち越流水深の変化に伴う各プール内の流況変化が精度良く、かつ効率よく予測できる(図2)。なお、他の流量時や、図2とはプール形状が異なる階段式魚道に対しても同様の再現性が得られる。
  • 3.の手法を用いて流況を予測し、2.の結果から遊泳行動パターンを当てはめることにより、設計段階でウグイの遡上状況を推定できる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究から横断方向に同一形状の隔壁を有する階段式魚道を設計する場合,その流況とそれに対応したウグイの遡上行動を予測することができる。
  • 切り欠き部と水平部を有する階段式魚道隔壁の流況予測やウグイ以外の遊泳魚と底生魚については今後の課題である。

具体的データ

図1 魚道内の流況とウグイの遡上経路の観測値

図2 魚道内の流況の解析値

 

その他

  • 研究中課題名:地域資源を活用した豊かな農村環境の形成・管理技術の開発
  • 実施課題名:農業水路系における魚類の生息・移動のための技術開発
  • 課題ID:421-d-00-004-00-I-06-9407
  • 予算区分:委託プロ(自然共生)
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:浪平篤、後藤眞宏、小林宏康
  • 発表論文等:
    1)浪平ら(2006)、一般座標系におけるVOF法を用いた階段式魚道内の流況の数値解析、農土論集242、pp.57-65
    2)浪平ら(2006)、階段式魚道における汎用的な流況予測のための数値解析手法、応用力学論文集9、pp.833-841
    3)浪平ら(2007)、階段式魚道における流量変化に伴うプール毎の流況およびウグイの遡上行動、
       水工学論文集51、pp.1291-1296