地下水位調節システムと畦畔漏水防止対策による転作作物の安定栽培

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要約

大雨時には長時間湛水が発生し、無降雨時は地下水位低下が著しい転換畑において、地下水位調節システムの導入と排水路側や下流側畦畔からの地下灌漑水の漏水防止対策を行うことで、栽培作物に適した地下水位が維持でき大豆等の収量が安定する。

  • キーワード:排水不良水田、地下水位調節、畦畔漏水防止、転作作物、大豆
  • 担当:農工研・農村総合研究部・水田汎用化システム研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7554
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政 普及

背景・ねらい

水田農業では稲・麦・大豆を軸とした輪作体系の確立が求められているが、土壌が粘質であったり、降雨時に湛水するなどの理由から 水田の畑利用が困難な地区も多い。この対策では暗渠排水が一般的技術として採用されているが、土壌の透水性は改善されても作物に最適な地下水位を保つこと は困難である。そこで、地下水位調節システム(FOEAS)の地下灌漑機能と暗渠排水機能であらかじめ設定した水位維持のための給排水を行うとともに、排 水路側や下流側畦畔からの漏水対策としてアゼシート(90cm)を畦畔内に埋設することで、作物に最適な地下水位の維持を実現し、転作作物等の安定多収を 図る。

成果の内容・特徴

  • 転作時に地下水位変動の著しい地区において、FOEASによる地下灌漑に加えアゼシート(ポリ塩化ビニル、幅90cm)で排水路側や下流側畦畔からの地下灌漑水の流出防止対策を施すことで、作物に最適な地下水位を維持する(図1、図2)。
  • FOEAS導入ほ場は、降雨に伴う長時間の湛水や地下水位上昇が回避されるため、降雨後1週間で地耐力が1MPa以上となり、トラクタなどによる適期作業が可能となるが、対照ほ場は降雨後長時間にわたり、地下水位の高い状態となることから地耐力の向上が困難となる(図3)。
  • FOEASの導入と畦畔漏水防止対策を施したほ場の地下水位設定を大豆播種日から収穫日までの間、田面から-35cmにすると、降雨による一時的な水位上昇や揚水機場の送水停止による水位低下が発生するが、これ以外はあらかじめ設定した水位を維持する(図4)。一方、対照圃場は降雨に伴う湛水と無降雨時の地下水位低下が顕著となる。
  • 現地実証ほ場における大豆の坪刈り収量は、対照ほ場の325kg/10a(1ほ場・3カ所平均)に対しFOEASほ場は498kg/10a(5ほ場・15カ所平均)となった。

成果の活用面・留意点

  • FOEASの施工マニュアルは作成済みである。下層が砂礫などで漏水が著しい水田は適用が困難である。
  • 降雨に伴う表面水の迅速な排除は、FOEASの暗渠排水機能のみに頼らず、ほ場面の緩傾斜化(1/1000程度)を図ることが望ましい。
  • FOEASの施工費用は、5ha以上のまとまりがある地区の場合、30a区画で20万円/10a程度、50a区画で17万円/10a程度である。
  • アゼシート(厚さ0.5mm、幅90cm)の資材単価は4,500円/20m程度である。施工は油圧ショベルを用いて行う。
  • 経営体育成基盤整備事業等の補助事業の採択条件が満たされれば、農家の費用負担は軽減されるが、地区的なまとまりがない場合、機械運搬経費等からコストが上昇する。

具体的データ

図1 地下水位調節システム(FOEAS)の概要

 

図2 アゼシートを用いた畦畔漏水対策

 

図3 降雨1週間後の地耐力

 

図4 地下水位調節システムによる水位制御状況(大豆栽培期間)

その他

  • 研究課題名:田畑輪作に対応した生産基盤整備技術の開発
  • 実施課題名:地下水位調節システム等による転換畑の湿害防止効果の検証
  • 課題ID:211-l-00-001-00-I-07-1102
  • 予算区分:交付金研究、平成19年度重点事項研究強化費
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:藤森新作、若杉晃介、小倉 力、島田信二(中央農研)、国立卓生(中央農研)、濱口秀生(中央農研)
  • 発表論文等:
    1)藤森新作、小野寺恒雄((株)パディ研究所)(2006)「耕作区の水位調節システム」特開2006-81436
    2)藤森新作、小野寺恒雄((株)パディ研究所)(2006)「排水暗渠の形成方法及び装置」特開2006-2400
    3)藤森新作(2007)転作作物の安定多収をめざす地下水位調節システム-水田リフォーム技術の開発-、農業および園芸、82(5):570-576
    4)藤森新作(2007)田畑輪換体系における水稲作も考慮した新たな排水対策技術は?、大豆づくりQ&A、(社)全国農業改良普及支援協会: 7-10