農作業が有する高齢者の身体機能低下の軽減効果

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要約

農作業の実施は、高齢者の身体機能に対して、生活習慣病の発生予防、身体活動状況の活発化、心身状況の安定、主観的健康感の増大につながっている。都市と農村の対流参加を促す動機付けに役立つ資料として活用できる。

  • キーワード:農業との関わり、健康指標データ、身体活動状況、主観的健康感
  • 担当:農工研・農村環境部・環境評価研究室
  • 連絡先:電話029-838-7683
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

農作業の実施が高齢者の身体機能に与える影響について、その有効性は示唆されているが、具体的な高齢者の健康指標との関係、身体 活動状況や社会参加の度合い等についての実証的な研究事例は乏しい現状である。そこで本研究では、健康診断のデータの解析、介入研究による身体活動状況の 測定、社会参加状況や主観的健康感と農業の関わり方等について比較対照研究を行い、高齢者が農作業を行う効果について、有益な情報を提供する。

成果の内容・特徴

  • 農業との関わり方の差によって、生活状況、検査データに差があるかを65~74歳の男女約5,000名を対象に、1農業を1 日3時間以上従事している人、2農業非従事者で花・野菜づくりを趣味で行っている人、3農業非従事者で花・野菜づくりも行っていない人、の3群で比較検討 した結果、農作業をする1群はしない3群に比べ、良好な食生活習慣、動脈硬化危険因子(糖尿病、高脂血症、高尿酸血症)で有意差が見られ、良好な結果であ る。男性の糖尿病(図1)の割合では3群の13.7%に比べ1群で8.3%と低く、女性の総コレステロール(図2)でも3群の216.6mg/dlに比べ1群で208.1mg/dlと低い。趣味で農作業をする2群は、ほとんどの項目で順位が1群と3群の間に入る。
  • 小型生活習慣記録機ライフコーダEXのモニターにより61~70歳の農作業実施者と非実施者40名の身体活動状況(運動量・ 歩数・運動強度・活動時間)を計測し、同時にPOMS(気分状況のテスト)を実施した結果、約50日の期間中に農作業を10日以上行ったI群と、0~9日 のII群を比較すると、平均日運動量の中央値でI群が230kcal、II群が145kcalなど全ての計測項目でI群の活動量が上回り、身体活動状況が良好 である(図3)。気分状況においてはV(活力)やF(疲労感)が同程度であるのに対し、I群のT-A(緊張・不安感)が有意に低いほか、C(混乱)も低い傾向であり(図4)、日常の農作業による精神状況の安定効果が示唆された。
  • 要介護状態の予防を目的とする介護予防健診の評価項目に注目し、健康診断を受けた女性2039人、男性1419人を対象に、 高齢者における「主観的健康感(健康状態に関する自己評価:「よくない」「ふつう」「よい」の3段階)」と関連する要因を分析し、農業と関わることが保健 予防につながるための要件を検討した結果、身体活動状況、食材の摂取状況が有意に関連しており、また農業との関わりとの関係では女性において顕著である。 この状況は農業をすることで、身体活動の低下を防ぎ、JA活動など主体的な社会的ネットワークへの参加につながり、趣味・楽しみになることによってもたら されると考えられる(図5)

成果の活用面・留意点

  • 本研究で示されている農作業を行うことの効果を示すことで、都市-農村の交流推進事業において、資料として活用が期待できる。
  • 都市の中高年住民が農業体験を行う効果については、本研究の結果を単純に適用することができないので、他の条件による同様な研究・検証が必要である。

具体的データ

図1.農作業と健康指標:糖尿病(男性65-9歳)図2.農作業と健康指標:高脂血症(女性65-9歳)

 

 

図3:身体活動量の農作業グループ間比較(I群:農作業10日以上、II群:農作業10日未満)

 

図4.POMS6尺度の農作業グループ間比較

 

図5.主観的健康感と関連する因子図式(女性)

 

その他

  • 研究課題名:農村地域の活力向上のための地域マネジメント手法の開発
  • 実施課題名:農業体験が有する高齢者の身体機能の低下軽減効果の解明
  • 課題ID:413-a-00-004-00-I-06-7408
  • 予算区分:交付金プロ(ソフト機能)
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:松森堅治、西垣良夫*、前島文夫*、臼田誠*、永美大志*、矢島伸樹*、 *(財)日本農村医学研究所
  • 発表論文等:
    1) 矢島伸樹ら(2005)農業体験が有する高齢者の身体機能の低下軽減効果の解明(第1報)~食生活習慣・検査データの比較から~、日本農村医学会雑誌、54(3):513
    2) 西垣良夫(2005)高齢者の健康指標からみた農業の可能性、第53回日本農村生活研究大会報告要旨:27-31
    3)矢島伸樹ら(2007)農業体験の運動効果に関する研究~ライフコーダEX着用データから~日本農村医学会雑誌、(56)3:455