水稲移植後の止め水かんがいによる排出負荷量抑制効果

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要約

水稲移植後において田面土壌からの溶出等により田面水の負荷物質濃度が高い場合、止め水かんがいは排出負荷量抑制効果を発揮す る。有明海沿岸クリーク地帯における調査圃場では、田面で高濃度を示した全リン(T-P)の水田からの差引き排出負荷量は止め水かんがいを実施することに より1.2kg/ha削減される。

  • キーワード:水田、水管理、止め水かんがい、排出負荷量抑制
  • 担当:農工研・農村環境部・水環境保全研究室
  • 連絡先:電話029-838-7546
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

農林水産省は農地・水・環境保全向上対策(平成19年度~)において、水質保全のための実践活動として田面水の負荷物質濃度が高 い代かき時の表面排水量を排水止水板を設置して抑えることを推奨し、この活動組織に補助金を支払う。水稲移植後でも田面水の負荷物質濃度が長期間にわたり 高い場合は、灌漑期間を通して止め水かんがいを行い、排出負荷量を抑制することは農村環境向上活動として有効である。しかし止め水かんがいが農村の水質環 境の向上にどの程度、資するのかを定量的に明らかにした研究は少ない。そのため有明海沿岸クリーク地帯(福岡県柳川市)の慣行的な水管理が行われている圃 場(慣行区)に止め水かんがい区を設置し、その排出負荷量抑制効果を現地試験から明らかにした。

成果の内容・特徴

  • 止め水かんがいは欠口部(図1)の堰板の高さを高めに設定し、用水量を節水型に調整することで表面排水の発生を抑える水管理方法である。慣行区の欠口高さ(図2) は灌漑初期~中干し前までの期間は約80mm、中干し後~落水までの期間は約50mmである。また慣行区の中干し期間では堰板は外されている。止め水かん がい区では灌漑期間(中干し期間を含む)を通して欠口高さ約90mmの堰板が設置され、慣行区に比較して高い欠口高さが維持される。
  • 慣行区では降雨期間(降雨開始時から降雨終了後4時間までの期間)に発生した表面排水量は全体の74%を占めており、降雨期間の表面排水量を抑えることにより灌漑期間の総表面排水量を抑制することが可能である。
  • 止め水かんがい区は慣行区に比較して“欠口高さ-田面水位”(図2)が灌漑期間を通して大きく維持されるため、降雨期間の表面排水量が抑制され、灌漑期間の総表面排水量が少ない(図3)。
  • 止め水かんがい区の田面水の平均値は用水に比較して全窒素(T-N)濃度は0.6mg/L低く、全リン(T-P)濃度は0.6mg/L高かった。慣行区でも同様の濃度変化を示し、用水が田面上を流下する過程で田面土壌からの溶出等によりT-P濃度が上昇した。
  • 止め水かんがい区は慣行区に比較して、水稲移植後の灌漑期間の総用水量が203mm(28%)、総表面排水量が375mm(72%)削減 された。差引き排出負荷量は慣行区ではT-N:-11.9kg/ha、T-P:1.6kg/ha、止め水かんがい区ではT-N:-9.9kg/ha、T- P:0.4kg/haであった。田面水のT-P濃度が高かったため、止め水かんがいにより表面排水量が抑制されたことでT-Pの差引き排出負荷量が 1.2kg/ha削減された(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 水田における水管理は排出負荷量と併せて高温障害や雑草繁茂、根腐れ等の抑制効果について検討した上で施行する。
  • 代かき作業や畦塗り作業を励行した上で止め水かんがいを行うことは、農地・水・環境保全向上対策の農村環境向上活動として推奨される。

具体的データ

図1 調査圃場の欠口部 図2 欠口高さ・田面水位

 

図3 灌漑期間の積算表面排水量および“欠口高さ-田面水位”の変化

 

表1 水稲移植後の灌漑期間の総水量および負荷量の比較

 

その他

  • 研究課題名:農村地域における健全な水循環系の保全管理技術の開発
  • 実施課題名:水田の水管理及び水質動態モデルの改良
  • 課題ID:421-a-00-005-00-I-07-8502
  • 予算区分:高度化(有明海)
  • 研究期間:2005~2007年度
  • 研究担当者:人見忠良、髙木強治、吉永育生、濵田康治、中 達雄
  • 発表論文等:人見ら(2007)、水管理の異なる水田における表面排水量の調査事例、平成19年度農業農村工学会大会講演会講演要旨集、680-681