排水河川の湿原への影響を評価する簡易水収支モデル

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要約

地下水-流入河川-沼-排水河川からなる簡易な水収支モデルは、流入河川に含まれる地下水流量、排水河川への流出量、排水河川から沼への逆流量の推定が可能であり、また排水河川に堰を設けた場合の沼の水位と開水面面積変化の評価が可能である。

  • キーワード:湿原、水文環境、水収支、地下水、排水河川
  • 担当:農工研・農地・水資源部・地下水資源研究室
  • 連絡先:電話029-838-7539
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

湿原を農地として開発するための排水事業が多くの地域で行われ、これまでに多くの湿原が消滅してきた。しかし、最近では、湿地は 多様な生物を育み、特に水鳥の生息地として非常に重要であると考えられるようになり、湿原の保全と排水事業の実施との調和が必要とされるようになってきて いる。湿原環境の基礎となる水文特性を把握するためには数値モデルによる水収支の定量化は不可欠であるが、湿原周辺では地下水と地表水(流入河川-沼-排 水河川)が複雑に交流しており、これらの交流現象と水文変量(降水、蒸発散、融雪等)を考慮した非定常解析が必要である。ここでは、地下水系と地表水(流 入河川-湖沼-排水河川)系及びそれらの相互作用を表現できる簡易な水収支モデルを構築し、北海道東部小湿原に適用して湿原の水文環境特性を表現するとと もに、排水河川が湿原に及ぼす影響、排水河川に堰を設けた場合の湿原保全効果を検証する。

成果の内容・特徴

  • 対象となる小湿原は、東側に隣接する排水河川の建設後、沼の開水面面積が大幅に減少しており、排水河川の影響を受けている(図1)。現在では沼と排水河川の水位はほぼ平衡状態にあり、水位差によっては排水河川から沼への流入現象が生じる。
  • 沼の下部地層は泥層であり、沼と地下水との直接の相互作用はないと判断できるため、流入河川からの流入部をタンクモデル、排水河川への流出及び排水河川からの逆流を経験式で表現することにより、湿原における水収支をモデル化する(図2)。
  • 水収支モデルにより、沼の水位変化の再現が可能で(図3),沼の貯水量と開水面面積が推定できる。また、タンクモデルの地表水・地下水分離により、流入河川に占める地下水の割合(74.7%)を算定する(図4)。この割合は沼を対象としたラドン質量収支式から得られた値(73.4%)とほぼ一致し、流入河川部のモデルの妥当性を示している。さらに、排水河川から沼への逆流量は、沼への総流入量の約30%と算定され(図5)、対象である沼の保全・管理には地下水起源の流入と排水河川からの逆流を考慮する必要がある。
  • 水収支モデルを用いて、排水河川に堰を設けた場合の沼水位、開水面面積の変化を算定する(表1)。堰を用いて排水河川の水位を制御することで、排水河川から沼への逆流を促進させ、沼の水位を高く維持し、開水面面積を保持することが可能である。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で開発したモデルは、今後の湿原周辺の排水河川の影響評価への活用が期待される。
  • モデル化にあたって、予め水理地質調査やラドン濃度調査等を行い、調査結果に基づいたモデルを構築する必要がある。

具体的データ

図1:対象沼の概要

 

図2:沼の水収支モデル

 

図3:沼の水位変化

 

図4:河川流入量に占める地下水起源流量の割合 図5:沼への総流入に占める逆流量の割合

 

表1:排水河川水位を制御した場合の沼の平均水位及び開水面面積

 

その他

  • 研究課題名:農村地域における健全な水循環系の保全管理技術の開発
  • 実施課題名:釧路湿原における地下水流動特性の解明
  • 課題ID:421-a-00-004-00-I-07-8401
  • 予算区分:公害防止(湿原生態)
  • 研究期間:2003~2007年度
  • 研究担当者:土原健雄、吉本周平、石田 聡、今泉眞之
  • 発表論文等:Tsuchihara, T. et al. (2006), Integrated field- and model-based study of hydro-environmental aspects of a small, endangered wetland in eastern Hokkaido, Japan, Paddy Water Environ., 4(3): 125-137