特殊形状土嚢を用いた越流許容型ため池堤体の耐侵食性能

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要約

引張り補強材が連結した扁平状の大型土嚢を用いて構築する越流許容型ため池堤体は、越流水深30 cm、越流継続時間6時間に対して、十分な耐侵食性を有する。また、これを上回る突発的な越水に対しても侵食の発達速度が遅く、決壊の回避対策に有効である。

  • キーワード:越流、減災、ため池、土嚢、豪雨
  • 担当:農工研・施設資源部・土質研究室
  • 連絡先:電話029-838-7574
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

農業用ため池は、地域の貴重な水資源となっており、その安全性の確保と維持管理は地域社会の防災機能を向上する上で極めて重要な 課題である。自然災害(豪雨・地震)のうち、堤体に深刻なダメージを与える越水現象に対する引張り補強材が連結した扁平状の大型土嚢を積層した越流許容型 ため池堤体の耐侵食性を評価し、その有効性を検証する。

成果の内容・特徴

  • 越流水深と損傷度の関係を図2に示す。越流水深23.8cm以下(図2a)では無損傷である。通水時間6時間で越流水深23.8~32.3 cm以下(図2b)では、軽微な損傷が表れるものの、十分な耐侵食性を有している。写真1aに越流水深が32.3 cm(単位幅流量0.348m3/s/m)時の下流斜面の状況を示す。
  • 堤体斜面部に土嚢を用いることによって中詰め材が拘束されているため、越流水による侵食は少ない。
  • しかし、土嚢が破断するような落下流が発生する場合(写真1b(単位幅流量0.652 m3/s/m)、 図2c)、斜面の侵食の発達速度が急激に早まる。ただし、土だけの無対策の堤体のような突発的な決壊現象(写真2)は表れず、侵食の進行が遅いため破堤に至るまでに比較的長い時間を要する。
  • 発生する可能性が少ない突発的な大洪水が発生し、下流斜面部の土嚢が大きく侵食される場合でも堤体内に土嚢に接続したテール(補強材)が残存しているため、堤体の構造的安定性が十分保たれる(写真3)。
  • 以上のことから、本堤体構造は越流水深30cmで、 越流継続時間6時間という耐侵食性能を有している。

成果の活用面・留意点

  • 引張り補強材が連結した扁平状の大型土嚢を積層した堤体構造は越流水による侵食防止対策として有効で、ため池堤体のほか貯水機能を有する土構造物に適用できる。
  • 堤体が土嚢や引張り補強材により補強されるので、急勾配のため池を築堤することができ、傾斜地や土地の制約条件がある地域に対応できる。
  • 紫外線などによる土嚢材の劣化対策(覆土や植生保護)について別途検討が必要となる。

具体的データ

図-1 実物大の越流破堤水理実験: a) 模型堤体断面図; b) テールとウィングを連結した特殊形状土嚢;および c) 築堤後の様子

 

図-2 越流水深と堤体下流

 

写真-1 堤体下流斜面の流況: a) 越流水深32.3cm時; b)越流水深58.3cm時

 

写真-2 裸地堤体の通水開始5分後(越流水深15.0cm)の侵食状況 写真-3 補強堤体の通水開始90分後(越流水深58.3cm)の侵食状況

 

その他

  • 研究課題名:地域防災力強化のための農業用施設の災害予防と減災技術の開発
  • 実施課題名:ため池堤体の越流破壊機構の解明
  • 課題ID:412-c-00-007-00-I-07-6702
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2007年度(強化研究費)
  • 研究担当者:毛利栄征、松島健一、有吉 充、堀俊和、後藤眞宏
  • 発表論文等:
    1) Mohri, Y. et al (2007) New direction of earth reinforcement - disaster prevention, Int. Sypo. On Earth Reinforcement Practice, IS Kyushu '07, Keynote lecture: 85-101.
    2) Matsushima K. et al (2008) Shear strength and deformation characteristics of geosynthetic soil bags stacked horizontal and inclined, Geosynthetics International, 15, No. 2 :119-135.
    3) 松島健一ら (2007)実規模大の越流許容型ため池堤体の越流破堤実験,農業土木学会大会講演集: 722-723