水路の落差構造物で発生する騒音の低減装置

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要約

本装置は、角材をフレキシブルに繋いだ筏状の構造で、落差構造物の越流部下流側に設置する。落下水脈を下流水面にすり付けるように変化させるとともに、筏構造の隙間から流水を徐々に落下させてエネルギーを減衰させることで、落水騒音を低減する。

  • キーワード:落差構造物、落水騒音、可聴音、低周波音、筏
  • 担当:農工研・施設資源部・水源施設水理研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7563
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・普及

背景・ねらい

農村地域の都市化、混住化の伸展に伴って、農業用水路の周辺に居住する人々が増えている。このような人々にとって、水路の流水音、特に落差構造物等において生じる落下水音は騒音として認識され、環境問題となっている。その対策として、水路に蓋を設置することが多いが、これが新たな音の発生の原因となる場合もある。また、落差構造物の形状を変えて斜面流とし、騒音を低減させる方法も考案されているが、水路の改修には多額の費用が必要となる。本研究では、低コストで落水騒音低減効果の高い装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本装置は、角材を一定間隔で筏状に繋いだものを、落差構造物の越流部下流側に設置したものである。装置は水に浮く部材からなり、水面変動にフレキシブルに対応する構造なので、波立ちの抑制効果が高い(図1、図2)。原理的には、落下水脈を下流水面にすりつけるように変化させるとともに、筏構造の隙間から流水を徐々に落下させてエネルギーを減衰させることで、落水騒音を低減する(図3)。
  • 装置は、落差構造物下流における波立ちの影響が落ち着く程度の長さが必要なので、装置上部にゴミが堆積する可能性もある。そのため、装置の長さを現場に存在するゴミが十分に流下できる程度にまで短縮して、一方で装置の下流端と水路底をワイヤーで固定し、ゴミの堆積を防止するとともに装置の安定化を図る(図2)。
  • 単位幅流量0.2m3/s/mの水理実験によれば、本装置の効果が現れる落差構造物上下流の水位差の上限は、可聴音域で0.3m、低周波音域で0.5mである(図4(a))。この水位差以上で装置の効果が低減するのは、落下水脈の下面が装置の上面から乖離し、水脈がいったん空中へ飛び出した後に、再び装置上へ落下することが原因と考えられる。
  • 図4(b)に示すように、騒音低減効果の高い水位差0.3mの周波数特性は、広い周波数帯にわたって10dB程度の音圧レベルが改善されている。しかし、わずかに値を変化させただけの水位差0.35mの周波数特性を見ると、200Hz以下の周波数帯では5~10dBの音圧レベル低下が認められるものの、それ以上の周波数では装置がない場合とほぼ同等である。よって、落差構造物上下流の水位差が0.3m以上では、本装置の導入にあたって現場の条件に合わせて落下水脈と装置の乖離を防止するよう、装置の斜度を調整するガイドを側壁に設けるとよい(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本装置は、国、県、土地改良区等による水路改修事業への活用が期待できる。
  • 音圧レベルに相似則は適用できないが、本装置による騒音低減の仕組みに変わりはないため、実験範囲を超える水理条件についても一定の効果が期待できる。
  • 単位幅流量、落差構造物上下流の水位差、装置長さと騒音特性の関係、ガイドの設置方法等水理設計の一般化が求められるが、多様な現場への導入には、水理実験による対応が望ましい。

具体的データ

図1 装置の詳細図

図2 装置の設置状況のイメージと効果

図3 装置を設置したときの流れ

図4 装置の効果

その他

  • 研究中課題名:農業水利施設の機能診断・維持管理及び更新技術の開発
  • 実施課題名:農業水利施設からの落水流騒音に対する新たな水膜振動低減工法の開発
  • 実施課題ID:412-a-00-008-00-I-08-4809
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2008~2009年度
  • 研究担当者:髙木強治、後藤眞宏、浪平篤、常住直人、正沢勝幸(建設技術研究所)、関谷明(建設技術研究所)
  • 発表論文等:1)後藤ら(2008)農工研技報、207:161-182
                       2)後藤ら「水域の落下水音・水流減衰構造」特許出願2006-295447