農業施設および周辺環境の解析のための大型風洞における気流作成法

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要約

大型風洞に農耕地の自然風と相似な気流を作成する際の粗度要素(スパイヤ、ラフネスブロック、人工芝)の配置方法・手順を示すものである。風洞実験における気流を効率的に作成するための指針として活用できる。

  • キーワード:風洞実験、自然風、風速分布、粗度長、乱れの強さ
  • 担当:農工研・農村総合研究部・農業施設工学研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7655
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

農業施設に作用する自然風の影響は、空気の流れそのものが推定しにくく、風洞実験や数値流体力学などの手法を用いて予測せざるを得ない。近年、耐風性や経済性を向上させた様々な温室構造が開発されているが、これらの温室の風力係数や換気特性を解明するための風洞実験のニーズが高まっている。風洞実験で用いる気流は、風洞の床面に設置するスパイヤ、ラフネスブロック、人工芝などの粗度要素の大きさと配置密度によって調整するが、目標とする風速および乱れの強さの垂直分布を得るには、数多くの試行錯誤と時間を要する。本研究では、風洞実験を行う際の気流作成の指針を供するため、大型風洞に農耕地の自然風と相似な気流を作成するまでの粗度要素の配置方法・手順と、風洞内の風速および乱れの強さの垂直分布の関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 風洞はエッフェル型の単回路吹出し式で、送風機、拡散胴、整流胴、縮流胴、計測胴で構成される。風洞の全長は62m、計測胴の大きさは幅4m、高さ3m、長さ20mである。送風機の口径は直径4m、風速の制御範囲は0.2~15.0m・s-1である(図1)。
  • 風洞内の気流は、計測胴床面に配置するスパイヤ(高さ1.8m、底辺0.3m)、ラフネスブロック(30、60、90mm角)、人工芝(パイル長5mm)などの粗度要素の大きさと密度を調整することにより、ターンテーブルの中心軸上に作成する(図2)。
  • 研究対象の農業施設の周囲は農耕地(水田,畑地,低草地)であると想定する。風洞内に作成する気流の粗度長および乱れの強さの目標値はTieleman(2003)の資料をもとに、縮尺1/20に対する実物換算の気流の粗度長を8~30mm、地上4mの乱れの強さを15~20%とする。この相似則を満たした風洞気流を作成するのに、約50ケースの粗度要素の配置パターンの調整を試みたが、その中で代表的な3ケースを示す(図3)。
  • スパイヤは計測胴床面からの高さが500~1300mmまでの風速を低下させる効果があり(ケース1)、60mmと90mm角ラフネスブロックは床面からの高さが100~500mm(ケース2)、30mm角のラフネスブロックと人工芝は床面付近の風速に影響を与える(ケース3)。したがって、大型風洞で気流を作成する際は、スパイヤで境界層上層の風速の垂直分布を調整した後に、ラフネスブロックの配置密度を変えて境界層下層の風速と乱れの強さを調整すると、目標とする気流を効率的に得られる(図3、4)。
  • ケース3の平均風速の垂直分布を対数則で示すと、縮尺1/20の粗度長は0.4665mm(実物換算で9.3mm)あり、主流方向の乱れの強さもターンテーブル上の200mm(実物換算で4m)の高さで15%程度あることから、農耕地の自然風が再現できる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、農耕地に対応する粗度要素の配置法の体系化の一部をなすものであり、風洞気流を作成する際の指針となる。

具体的データ

図1 大型風洞の概略図(単位:mm)

図2 計測洞内における粗度要素の設置状況

図3 計測胴床面の粗度要素の配置図

図4 計測胴床面の平均風速(○)および乱れの強さ(■)の垂直分布

その他

  • 研究中課題名:農業施設の耐風構造と複合環境制御技術の開発
  • 実施課題名:数値流体力学による温室内気流・温度環境の解析手法の開発
  • 実施課題ID:213-h-00-002-00-I-08-2201
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:石井雅久、森山英樹、奥島里美、佐瀬勘紀
  • 発表論文等:1)石井ら(2008)農業施設学会誌、39(2):133-140