希少種ホトケドジョウの遺伝的多様性指標、核DNA配列の決定

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要約

水田水域の生態系解明に向けて、遺伝的多様性指標となりえる核DNA配列を希少種であるホトケドジョウについて決定する。サンプル集団における配列の違いから、多様性指標に相当する集団内の個体の遺伝的同一性及び集団間の遺伝的差異を計量できる。

  • キーワード:ホトケドジョウ、遺伝的多様性、DNA配列、水田水域、希少種
  • 担当:農工研・農村環境部・生態工学研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7686
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

水田水域の生物多様性の維持、回復は農業農村整備事業においても大きな目標となっている。生物多様性には遺伝的多様性(ある1種の集団中に多様な遺伝子が存在すること)、種多様性(多くの生物種が存在すること)、生態系多様性が定義されている。これまで定義の明確さから生物多様性を種多様性として捉える研究が多く行われているが、遺伝的多様性や生態系多様性についての研究は遅れている。ここでは、希少性が高く水田水域の環境指標や整備事業での保全対象種になりやすいホトケドジョウLefua echigoniaについて、遺伝的多様性の指標となりえるDNA配列を決定する。

成果の内容・特徴

  • 遺伝的多様性の指標として、核DNAに散在し、CA、CTA 等の2~5塩基を繰り返し単位とするDNA配列(マイクロサテライト、以下、「指標配列」)を決定する。
  • 千葉県下田川における採捕個体を利用して、指標配列の濃縮ライブラリーをクローニングすることによって19個の配列を決定している(表1)。各配列にはLec01~Lec19の名称を付け、それぞれの配列をGenBankに登録し(AB286032~AB286048、AB439725、AB439726)、PCR増幅に必要なプライマー配列を決定している(表1)。
  • 指標配列の有効性を明らかにするため、河川水系の異なる栃木県南東部のサンプル6集団(各集団10~24検体、図1)について遺伝的多様性を解析する。解析では指標配列ごとに表1のプライマーと表2の反応条件を用いてPCR増幅し、各個体について配列の違いをシーケンスした遺伝子型データを利用する。
  • 19個の指標配列のうち、サンプル集団には2つ以上の遺伝子型をもつ多型配列が12個含まれている(表1)。集団の遺伝的多様性の指標となる集団内における個体の遺伝的同一性は、1遺伝子座あたり対立遺伝子数の平均で4.92~6.25、ヘテロ接合度の観察値と期待値の平均でそれぞれ0.45~0.62と0.54~0.61と推定され(図2上)、どの集団も個体間の遺伝子が同一化している傾向は認められない。
  • 遺伝的多様性のもう1つの指標に相当する集団間の遺伝的差異は遺伝的分化尺度FSTで推定され、その差異はFSTの系統樹により可視化できる。FSTは0.06~0.21となり、系統樹による集団の遺伝的差異は河川水系の地理的配置に関連している(図2下)。各指標配列(表1)は遺伝的多様性の解析に利用可能なことをあらわしている。

成果の活用面・留意点

  • 分析対象の集団によって多型配列が異なる場合があるため、指標配列を利用する際には少数個体による予備分析を行うことが望ましい。
  • 指標配列は産地等の帰属性や集団構造の解析、個体識別にも利用できる。ホトケドジョウ以外の種については新たに指標配列を決定する必要がある。
  • 当成果ユーザーには保全遺伝学や保全生態学に携わる試験研究機関を想定している。

具体的データ

表1 ホトケドジョウの遺伝的多様性指標となりえる19個の核DNA配列

図1 栃木県南東部のサンプル6集団の採捕地点(●印)と検体数(N)

表2 指標配列のPCR増幅に用いる反応条件

図2 サンプル集団の遺伝的同一性[上図:1遺伝子座あたり対立遺伝子数とヘテロ接合度(エラーバーは標準誤差)]と遺伝的差異(下図:近隣結合法によるFSTの系統樹)

その他

  • 研究中課題名:地域資源を活用した豊かな農村環境の形成・管理技術の開発
  • 実施課題名:水田水域における環境修復対策の総合的評価手法の構築
  • 実施課題ID:421-d-00-004-00-I-08-9406
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:小出水規行、渡部恵司、竹村武士、森 淳、水谷正一(宇大農)
  • 発表論文等:1)Koizumi N. et al. (2007) Mol. Ecol. Notes 7(5):836-838
                       2)小出水ら(2008)農業農村工学会論文集、256:55-61