多様な水田水利用を考慮した分布型水循環モデル

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要約

「作付時期・面積推定モデル」や「水田水利用モデル」の特徴的要素を持つ分布型水循環モデルである。取水量、土壌水分量、実蒸発散量等の諸量が任意の時点・地点で推定でき、農地利用や水田水利用の変化が流域水循環に与える影響を具体的に評価・予測できる。

  • キーワード:農地水利用、分布型水利用モデル、天水田・灌漑水田、モンスーンアジア、水-食料
  • 担当:農工研・農地・水資源部・水文水資源研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7537
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

モンスーンアジア地帯における水利用は、水田が主体である、灌漑形態が様々である(図1)、乾季と雨季が存在する、干ばつと洪水が発生するなどの特徴がある。しかし、既存の水文・流出モデルではこのような水利用の多様性は必ずしも考慮されておらず、これらの影響を総合的に評価するモデルも得られていない。そこで、ここでは上記の特徴を解析するための個々の要素モデル(蒸発散量推定、作付時期・作付面積推定、水田水利用、流出)から構成され、多様な水田水利用を考慮できる分布型水循環モデルを開発・提案する。

成果の内容・特徴

  • 全体モデルは、実蒸発散量推定の基礎となる「蒸発散量推定モデル」、水田の種類や降水量に応じて変動する水田作付状況を推定する「作付時期・作付面積推定モデル」、水利用・水管理を評価する「水田水利用モデル」ならびに水循環部分を表現する「流出モデル」から構成されている(図2)。それを、モデル開発・検証のための代表流域としてメコン河流域に適用し、本川5地点と支川1地点における実測流量ならびに独自に設置・観測を行い推定した実蒸発散量の両者によりモデル検証を行った結果、共に良好な再現性を示している(例えば、図3)。さらに、以下のような重要情報が得られる。
  • 当該流域の日々の降水量や水田水利用形態を入力することで、各年の水環境条件に応じた作付状況を推定できる(図4 )。また、天水田面積率が高い地域では、特に乾季に基準蒸発散量(修正ペンマン・モンティース式から算出)とモデルで推定される実蒸発散量の間に明瞭な差が生じる。さらに、提案したモデルは分割したセルごとに土地利用を面積率で与えているため、土地利用変化に伴う影響評価への対応が容易である。
  • 農地水利用を天水田(3種類)と灌漑水田(6種類)に分類し、それぞれの特徴を水田水利用モデルに組み込み、水田の雨水貯留効果も考慮している。この水田水利用モデルは、灌漑方式(図1)、施設ごとに諸量を設定し、実取水量を水田必要水量、施設容量、取水可能量の比較から決定するため、現実に近い灌漑状況が再現でき、水田地帯における用水の反復利用にも対応できる。
  • 当モデルにより農地水利用に関わる水田作付面積、取水量、土壌水分量等の諸量が任意の時点・地点で推定できる。さらに、灌漑開発に伴う河川流量への影響予測から天水田で灌漑開発が進むと乾季流量が大幅に減少するなど、開発したモデルを用いると、各種人間活動(農業活動の変化等)の流域水循環への影響が評価・予測できる。

成果の活用面・留意点

  • ここでは各種の水循環特性を有するメコン河への適用結果を示しているが、モデルはモンスーンアジアの全地域・流域にも適用可能である。
  • モデルは地球温暖化に伴う水循環変動やその灌漑施設、灌漑用水、排水、食料に対する影響度予測、食料政策に対する緩和策・適応策の評価等にも応用できる。
  • 提案した分布型水循環モデルは、水循環変動が食料生産に及ぼす影響を評価して政策シナリオ(食料・水・環境)を提案できるツールとしてH19年度農工研主要成果に公表したAFFRC水―食料モデルの基幹をなす要素モデルを改良発展させたものである。

具体的データ

図1 モデル適用流域の概要と灌漑方式の分類(メコン河下流域)

図2 分布型水循環モデルの任意メッシュ内の構造(図中の枠は、六角形が入力データ、平行四辺形が出力量、長方形がサブモデルを示している。)

図3 観測流量と流出モデルによる推定流量の比較(図1の本川Pakse 地点、1999~2003年)

図4 作付時期・作付面積推定モデルより概定した水田作付面積率(各メッシュにおける[作付面積/水田面積]、%)の期別変化(メコン河下流域、1999 年(少雨年)と2000 年(多雨年))

その他

  • 研究中課題名:農村地域における健全な水循環系の保全管理技術の開発
  • 実施課題名:農業用水利用を組み込んだ分布型流出モデルの開発
  • 実施課題ID:421-a-00-001-00-I-08-8101
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:増本隆夫、堀川直紀、吉田武郎、谷口智之、清水克之(鳥取大)
  • 発表論文等: 1)谷口智之ら(2009) 、水文・水資源学会誌、22(2):101-113、114-125、126-140
                       2)Masumoto, T. et al. (2009), "From Headwaters to the Ocean: Hydrological Changes and Watershed
                        Management (M. Taniguchi et al. (Eds.))": 195-201,Taylor and Francis
                      3)Horikawa, N. et al. (2007) Proc. of Intl. Workshop on “Assessment of Changes in Water Cycles on Food
                        Production and Alternative Scenarios”-Implications for Policy Making-, Nov. 22, 2007, Epocal Tsukuba,
                        Japan: 73-88