有明海の高精度潮流解析モデル

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要約

有明海の潮流を精度よく解析できる潮流解析モデルである。本モデルは、気泡関数要素の利用により解析の安定化を図るとともに、空間分解能の高い解析メッシュを用いることにより、有明海の潮流特性を良好に再現できる。

  • キーワード:有明海、潮流、数値シミュレーション、調和定数
  • 担当:農工研・施設資源部・河海工水理研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7568
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

干拓で造成された有明海沿岸の農地は、地盤標高が低く、台風の常襲地帯でもあることから、高潮災害の危険性が高い。しかし、従来の有明海の潮流解析モデルは、空間解像度や解析モデルの再現性が十分でないことから、農業用施設に対する海域の影響評価を目的とした沿岸域の流れの解明には、不十分である。そこで、周囲の地形を忠実に再現できる非構造格子を用いた潮流解析モデルを開発する。

成果の内容・特徴

  • 非構造格子を用いた従来の潮流解析モデルでは、計算が不安定になる数値的な振動の発生を抑えるため、人工粘性を付加して計算を安定させる必要があった。この方法では、時間変化の大きな現象が再現できない。ここでは、気泡関数要素を用いたモデルを構築し、解析の安定化を図る。
  • 有明海沿岸域に位置する農業水利施設(排水樋門、排水機場など)に対する高潮の影響を解析できるよう、これら施設の配置を考慮した詳細な解析メッシュを作成した(図1)。メッシュサイズの最小値は、有明海湾奥部で 95m、諫早湾内が80mである。
  • 有明海内の検潮所(口之津、三角、大浦)における潮位データと数値解析結果を比較した(図2)ところ、いずれの地点においても実測値をほぼ再現できることが示された。ただし、900m格子の地形標高データを用いているため、沿岸部の地形標高が相対的に低くなり、大潮の満潮付近で潮位をやや過小評価する傾向が見られた。なお、各検潮所における平均誤差は、それぞれ0.08m、0.147m、0.204mであり、これにはモデルの誤差以外に気圧や風による影響も含まれる。
  • 図3にSt.1~St.12の12地点における潮流速の観測値と数値解析結果の調和定数を比較した。紙面の都合上、主要4分潮のうち、半日周期のM2、S2分潮のみを示す。調和定数の比較から、本モデルにより有明海全域にわたって分布する測点の調和定数を良好に再現しており、有明海の潮流の特性を評価できるといえる。
  • 28昼夜(672時間、Δt=2.5s)にわたる潮流の再現に要したPCの計算時間は、22時間であり、実用上問題のないレベルである。

成果の活用面・留意点

  • 本モデルは、沿岸域の流況および洪水氾濫などの予測を目的として、研究者をはじめとして、現場技術者および民間コンサルタントの利用が期待される。
  • 本モデルには、主要河川からの流入、風のほか,気圧分布に伴う潮位変動がモデル化されており、台風による風速、気圧分布を外力として加えることで、高潮による潮位上昇が解析できる。ただし、2次元解析のため、密度流による影響は再現できない。

具体的データ

図1 解析メッシュと海底地形鳥瞰図

図2 潮位解析結果と観測値の比較

図3 潮流の調和定数の比較

その他

  • 研究中課題名:地域防災力強化のための農業用施設等の災害予防と減災技術の開発
  • 実施課題名:シグマ座標を導入した有明海潮流解析システムの構築
  • 実施課題ID:412-c-00-005-00-I-08-6506
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:桐 博英、白谷栄作、丹治 肇
  • 発表論文等:1)桐ら(2008) 海岸工学論文集、55:376-380