鉄イオンの酸化による地すべり対策集水ボーリング末端の閉塞の要因と対策
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要約
地すべり対策工法としての集水井等に設置される集水ボーリングの末端部に発生しやすい水酸化鉄の生成による閉塞障害は、集水管末端に延長管を付加して排除地下水を大気から遮断することで大幅に抑制でき、維持管理の負担軽減につながる。
- キーワード:地すべり、集水井、目詰まり、水酸化鉄
- 担当:農工研・企画管理部・防災研究調整役
- 代表連絡先:電話029-838-8193
- 区分:農村工学
- 分類:技術及び行政・参考
背景・ねらい
地すべりの主因である地中間隙水圧を低減するために、排水ボーリング等による地下水排除工が多く施工されている。地下水排除工は地すべりブロックへの流入地下水を排除して定常的に間隙水圧を低下させるとともに、降雨時等の間隙水圧上昇の抑制、地震等で地盤に亀裂が発生した場合の浸透水増加対策等の機能を果たし、斜面を安定させる効果を発揮する。しかし、集水管末端ならびに末端近くの内部に汚泥状の物質が付着して閉塞し、排水機能を阻害する問題が多く発生している。付着物は主に地下水に溶解している鉄イオンから鉄細菌の作用によって生成される水酸化鉄で構成されることが知られている。設置後の管理が困難な集水井内の集水ボーリングを対象として閉塞の進行に関わる要因を明らかにし、簡易な閉塞対策法を提案する。
成果の内容・特徴
- 火砕流堆積台地で切盛土による地形修正を行って造成した斜面に設置された集水井の事例では、地下約6mに設置された17本の集水ボーリングから常時排水されている(図1)。谷埋め盛土域に貫入する集水ボーリングからの排水は切土域からの排水より溶存イオン濃度が高く、集水管末端の付着が著しい傾向がある。
- 集水管末端の閉塞程度を集水管断面の閉塞率を付着度ランクによって分類すると、排水量に全鉄濃度を乗じた鉄イオン排出量との間に相関がある(図2)。また、排水のEh-pHダイヤグラム上の2価鉄の存在領域で酸化還元電位(Eh)が低い場合ほど付着度が高い傾向がある。
- 集水管は満流でなく、表1のように管内には酸素分圧が低い空気が微正圧で存在している。従って、排水中の鉄イオンは管内では酸化を受けにくく、末端で大気にふれることで水酸化鉄が生成して付着する。付着物質は地下水とともに流出してきた土粒子を捕捉して閉塞がさらに進行する。集水管末端が閉塞して管外にあふれた排除水により、集水管と集水井壁との隙間にも付着が拡大する。
- 集水管末端の付着物を試験期間毎に全量採取して計量した結果から、図3に示すように付着が著しい管では期間が短くても付着物生成が進行する。溶存鉄イオンの酸化が閉塞の主因である場合は、図1のように集水管末端に延長管を取付けて、排水を大気にふれないまま集水井底部の湛水に落下させると付着を抑制することができる。付着量が多い条件ほど付着抑制効果が大きい。この方式では集水管内に排除水を滞留させないので流出土砂が堆積しない。
- 集水管内に付着した物質の洗浄は、高圧洗浄機でなくても汎用の水中ポンプとブラシ付きホース、挿入用ロッドを用いて簡易に行うことができる。
成果の活用面・留意点
本成果は、地すべり対策で設置する排水ボーリングや集水井の機能維持の参考技術である。管内空気や地下水に溶存している酸素によって酸化される場合や水酸化鉄以外の付着物によって閉塞する場合もある。
具体的データ




その他
- 研究中課題名:地域防災力強化のための農業用施設等の災害予防と減災技術の開発
- 実施課題名:地すべり対策地下水排除工の機能評価と計画手法
- 実施課題ID:412-c-00-008-00-I-08-6801
- 予算区分:交付金研究
- 研究期間:2006~2008年度
- 研究担当者:奥山武彦、黒田清一郎
- 発表論文等:1)奥山、黒田(2009)農工研技報、209:1-6