地すべり対策地区における応力変形解析手法を用いた予防保全

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要約

地すべり防止対策地区における地中変位・地下水変動及び地盤物性の実測値に基づき、破壊挙動を忠実に再現できる応力変形解析手法(混合型破壊モデル)を用いることにより、要監視領域を概定して地すべり対策概成後の予防保全を有効に行える。

  • キーワード:地すべり防止、応力変形解析、予防保全、地盤の破壊、概成検討
  • 担当:農工研・農村総合研究部・広域防災研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7534
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

農地地すべり防止対策を行う際には、防止施設概成後も観測・監視を行い所定の機能が発揮されていることを確認するため、維持管理については十分な検討を行う必要があり、概成地区においても変状が生じた際の早期発見・早期対策を行う予防保全が重要である。農地地すべりの広域予防保全行為を実施する上で重要となる応力変形解析手法の開発を行い、地すべり対策概成地区における予防保全に資する。

成果の内容・特徴

  • 開発した解析システムは対象とする地すべりの地中地中変位、地下水変動等のデータをデータベース化して任意地点・任意時期の変動量を分析・図化して解析を行う。解析対象の地すべりは概成している第三紀層の慢性型地すべりである。地すべり推定深度は5~15mであり、事業期間に対応する1995年から2005年までの地中変位・地下水変動の全データを使用する。孔内傾斜計測定孔数は28、地下水位測定孔数は30である。
  • 図1に示すとおりに変形が集中する領域の幅(せん断帯幅)を実測し、この結果に基づいて、地すべり崩土内部での変形の局所化を伴う進行的な破壊と、過去のすべり面に沿った再活動を考慮した解析を行う。
  • すべり面強度である残留強度と併せて初生的な破壊を予測するための物性値もすべて実測値を用いており、近傍類似地区での解析に有用となる。実測値は圧密排水条件での三軸圧縮試験をせん断速度約0.001%/minで行って求めた。図2(1)に示す未破壊領域で採取されたサンプルは、破壊後の体積膨張・強度低下が明瞭であり、この物性を使用する方が、図2(2)に示す破壊領域で採取されたサンプルの物性に比べて現実的な結果を与える。安全率に相当する限界荷重係数が0.71となる後者よりも1.11となる前者の方が現実に近い結果を与えている。
  • この例では、対策工として集水井工・水抜きボーリング工等が施工され、図3に示す地下水観測孔における孔内水位の低下に対応して地中変位の沈静化が実測されている。この地下水位等実測結果をもとにした応力変形解析から求められる破壊領域を、崩土内の塑性ひずみ、すべり面上での塑性変位として図4に示しており、この結果から概成後はブロック下方の潜在移動域への注意が重要になると考えられる。図中には事業完了後の5年間、5月と11月の年二回の継続観測が続行されている地中変位・地下水観測孔の位置を示しているが、このような継続観測と併せて図4地点B周辺では畔畦除草等を入念に行って地表面変状の監視に留意する等、要監視領域の概定に応力変形解析の結果を活用できる。

成果の活用面・留意点

地すべり土塊中段に抑止工(杭工)等が施工されており、これらの効果を精度良く評価するためには三次元解析を行う必要がある。

具体的データ

図1 採取試料破壊後の変形集中領域(側圧120kPa)

図2 採取試料の破壊挙動(応力-ひずみ曲線)

図3 孔内水位・地中変位の変動(地すべり土塊中央部) 注)図4の地点Aでの実測値であり、破壊予測結果もこれと対応。

図4 破壊予測結果

その他

  • 研究中課題名:地域防災力強化のための農業用施設等の災害予防と減災技術の開発
  • 実施課題名:農地等斜面災害予防保全のための応力変形解析手法の開発
  • 実施課題ID:412-c-00-008-00-I-08-6806
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:川本治、古谷保、山田康晴、中里裕臣、井上敬資
  • 発表論文等:1)川本ら(2007)農工研報告、46:49-65
                       2)川本ら(2007)第42回地盤工学研究発表会講要:968
                       3)川本ら(2007)第46回日本地すべり学会講要:161-164