アメリカザリガニの畦畔掘削による漏水の実態と対策技術

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要約

アメリカザリガニによる漏水が顕著なつくば市内の水田地帯では、掘削穴は畦畔100m当たり30.6個 、掘削深さは最大100cm、平均25cmである。また、従来の漏水対策技術では不完全であり、畦畔に90cm幅のシートを埋設することで漏水防止が可能となる。

  • キーワード:アメリカザリガニ、掘削穴、水田漏水、畦畔、ポリオレフィン系シート
  • 担当:農工研・農村総合研究部・水田汎用化システム研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7555
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

水田畦畔からの漏水は、適切な水管理を困難にし、また用水量増大や用水不足の発生といった問題を引き起こす。漏水発生ではアメリカザリガニやモグラ、ネズミなどの小動物による掘削穴が大きな要因となっているが、掘削能力や特徴は、明らかになっていないため有効な対策技術がなく、毎日の見廻りと手作業による穴埋めによって対応している。そこで、被害が深刻であるアメリカザリガニを研究対象として、掘削能力及び被害実態を調査し、その対策技術を検討する。

成果の内容・特徴

  • 実物大の畦畔モデルによる掘削実態調査では、最大深さは58cmに達し、1日に20cm以上掘削し、孔径は5~10cm程度である(図1)。また、主に縦方向に掘削し、緩やかなS字を描くように土を掻き出しながら掘削する。
  • 茨城県つくば市松ヶ崎の約21haの水田地帯において、小排水路側沿いの畦畔で掘削穴の位置と深さの実態調査を行う。掘削穴は、平成19年の調査では8.1個/100m、平成20年は被害が顕著な約4haのエリアを中心に調査して30.6個/100mを確認し、掘削深さの最大は100cm、平均は25cmである(図2)。
  • 現地確認した1つの掘削穴からの流出量は最大1.5L/s(30a区画で43mm/dayに相当)で、漏水の著しい水田では除草剤が効果を発現せず、雑草の繁茂が著しいため不作付地となる。掘削穴数は中干しを始めた7月以降に急増しており、一筆水田の湛水面の減少と掘削の関係が強いと考えられる(図3)。
  • 掘削能力からみて、畦塗りや漏水・波浪崩壊防止対策で一般的に用いられている30cm幅のシート埋設では掘削を防止することは困難であり、田面下60cm程度までの対策を必要とする。
  • 漏水対策ではサリガニの掘削に対して十分な強度をもつ、90cm幅のポリオレフィン系シートを用いる。油圧ショベルで田面下70cmを掘削してシートを埋設、田面から上の20cmは畦畔土で覆うことにより太陽光による劣化も防止できる。また、ザリガニ穴のみならず畦畔から排水路へのほとんどの漏水を防止できる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 掘削穴による漏水被害は畦畔際から排水路に掘削されたもの以外に、畦際から離れた位置についても耕盤層以深に掘削された場合に発生する可能性がある。
  • 掘削穴は漏水に伴って徐々に洗掘され、漏水のみならず畦畔崩壊が発生する場合がある。
  • 深さ70cmに埋設するシートによる漏水対策技術は、アメリカザリガニ以外に横方向に穴を掘削するモグラの対策においても有効な技術である。
  • 漏水対策では土壌固化剤などによって固化する技術もあるが、コスト面からシートを埋設する対策が有利である。

具体的データ

図1 畦畔モデルの掘削状況

図2 アメリカザリガニの掘削穴分布図(H19年)

図3 掘削深の分布(H20年)

図4 畦畔側の漏水対策技術

その他

  • 研究中課題名:田畑輪作に対応した生産基盤整備技術の開発
  • 実施課題名:水田畦畔の漏水防止と崩壊低減技術の確立
  • 実施課題ID:211-l-00-001-00-I-08-1201
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:若杉晃介、藤森新作、北川 巌
  • 発表論文等:1)若杉、藤森(2007)農業農村工学会講演要旨:834-835
                       2)若杉ら(2008)農業農村工学会関東支部講演要旨:57-58