希少性の高いトゲウオ類生息地における水草刈りに伴う個体数減少緩和策

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要約

希少性、保全必要性が高いトゲウオ類の生息地において、水草刈りなど維持管理時に刈り取った水草を3時間以上護岸上に取り置いておくことは、水草に紛れて陸に上げられている個体を脱出させ、維持管理に伴う個体数減少を緩和する簡易な策として機能する。

  • キーワード:希少種、トゲウオ、トミヨ属雄物型、水草刈り、維持管理
  • 担当:農工研・農村環境部・生態工学研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7686
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

水辺で行われる草刈りや泥上げなどの維持管理は、必要な攪乱となる側面もあるが、生物個体の生死に関わる直接的影響を与えている。絶滅の危機に瀕する種(絶滅危惧種)トミヨ属雄物型を対象に、その実態を把握するとともに、有効性が未確認のまま一部地区で感覚的に実施されている影響緩和策を定量的に実証する。本種をはじめとするトゲウオ類は、希少性が高く、また、水辺環境の変化による生息地の減少や不適切な水路維持管理時の攪乱により生息数が減少しており、NPO等による保全活動が盛んに行われている。個体数減少緩和策の実証は、上記の保全活動や農地・水・環境保全向上対策に資する。

成果の内容・特徴

  • 絶滅危惧種トミヨ属雄物型の生息地である秋田県K地区では、水路、湧泉の維持管理の際、刈り取った水草は護岸上に数日間取り置く。水草に紛れ込んでいる個体を水中へ落下(脱出)させ、維持管理に伴う個体数の減少という影響を緩和するためである。この影響緩和策について、水草への紛れ込みおよびそこからの脱出の実態を明らかにしている。
  • 2007年4月および9月、年2回実施の維持管理にあわせて実態調査を実施している(図1)。調査では、護岸の一部を対象として、4月に網2式(網4-1、4-2)、9月に網1式(網9-1)を用い、維持管理の終了から丸1日を経過ののち残留個体の、それ迄の間に脱出個体の確認作業を数回行い、また、各網に載せられている水草の量を2通りの方法で概算している(図2。除草量A、B)。
  • 4月には網2式の置かれている護岸部の延長計3.2m(水草の置かれている護岸部全体の8.0%)の僅かな範囲で計7個体が、9月には網1式の置かれている護岸部の延長1.3m(同3.5%)の僅かな範囲で計17個体が、水草に紛れ込んでいることが確認され(表1)、刈り取られた水草には多数の個体が紛れ込んでいる。
  • 水草に紛れ込んでいる個体のうち、4月に1個体、9月に9個体の脱出およびそれら脱出個体の生存が確認され、刈り取った水草を護岸上に取り置くという影響緩和策が機能していることが確認されている(表1)。脱出は維持管理終了から3時間以内に行われ(表1)、取り置きは比較的短時間でも効果があるものと考えられる。
  • 網4-1と4-2では、1個体が脱出している網4-2で除草量A、Bとも少ない。また、除草量AをBで除して得られる値は網4-2で大きい(表2)。この値は圧力をかけたときの水草の量的変化率で、値が大きいほど水草が柔らかに積み上げられている状態である(図2)。脱出には除草量や積み上げ方などが影響すると推察される。

成果の活用面・留意点

  • 水草の取り置きは、積み上げ量が多くなりすぎないよう、また、あまり押さえつけないよう、できるだけ薄く広げた方が効果的と考えられる。
  • 護岸への取り置きのほか、可能であれば水面上でのはざがけなども有効である。

具体的データ

図1 実態調査の実施

図2 除草量算出と水草の状態

表1 水草へのトミヨ属雄物型の紛れ込みと脱出

表2 各網に載せられている水草の量

その他

  • 研究中課題名:地域資源を活用した豊かな農村環境の形成・管理技術の開発
  • 実施課題名:水路の維持管理と魚類生息場機能の相互関係の解明および順応的管理に向けたモニタリング手法の開発
  • 実施課題ID:421-d-00-004-00-I-08-9401
  • 予算区分:交付金プロ(資源保全)
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:竹村武士、奥島修二、森 淳、小出水規行、渡部恵司、神宮字寛(宮城大食産業学部)
  • 発表論文等:1)竹村ら (2008)農業農村工学会誌、76(8):11-14