1m深地温の逆解析によるため池堤体漏水の幅・深度推定法

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要約

1m深地温の測定と三次元熱伝導シミュレーションを組み合わせたため池堤体漏水の幅・深度推定法である。堤体天端上の測線において、測定した1m深地温に対する逆解析を三次元熱伝導シミュレーションにより行い、堤体内の漏水の幅と深度を求める。

  • キーワード:ため池堤体、漏水、1m深地温、熱伝導シミュレーション、逆解析
  • 担当:農工研・農地・水資源部・土地資源研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7671
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

ため池堤体の健全度合の判断指標の一つとして、堤体の漏水が挙げられる。また、漏水を生じた堤体の部分的な改修・補修を行う場合には、漏水経路の把握が必要である。 安価かつ簡便な地下水流脈調査法として1m深地温探査法が知られている。しかし、既往の1m深地温探査法は地盤を半無限平面、地下水流脈を円柱と見なして定常熱伝導方程式の近似解を求め、地下水流脈の規模と深度を推定するものであることから、半無限平面とは見なせないため池堤体内部の漏水探査への適用は適当ではなかった。
そこで、1m深地温の測定と有限要素法による三次元熱伝導シミュレーションを組み合わせ、逆解析によりため池堤体内部の漏水の幅と深度を推定する手法を提案する。

成果の内容・特徴

  • ため池堤体に設定した測線上で測定した1m深地温の分布と熱伝導シミュレーションで求めた1m深地温の分布を一致させる作業により、堤体内部の漏水の幅と深度を推定するもので、安価かつ簡便な方法である(図1)。
  • 1m深地温は漏水によって生じた堤体内部の地温異常(通常の1m深地温と異なる地温の範囲)が把握できるよう、作業が容易なため池堤体天端等に測線を設定し、1~2m間隔で測定する。測定は既往の1m深地温探査法に準じ、鋼棒等を堤体中に打ち込んで削孔した後、孔に白金測温抵抗体等の精度の高いセンサを挿入して行う。ため池堤体においても、漏水部分とそれ以外の部分の1m深地温の差は、夏と冬に大きく春と秋は小さいことから、1m深地温の測定は夏または冬に行うことが適当である。
  • 熱伝導シミュレーションは、堤体内の1m深地温においても日較差を無視できることから、定常熱伝導問題(内部発熱なし)として単純化できる。1m深地温の分布は漏水の幅の違いに対しては主に変化域の幅として、漏水の深度の違いに対してはほぼ等しい変化域内で地温の違いとして表れる。このため熱伝導シミュレーションの初期条件として実測による漏水温を与えることにより、逆解析によって漏水の幅や深度を推定できる(図2、図3、図4)。
  • 堤体内部の漏水の推定は、測定した1m深地温とシミュレーションで求めた1m深地温の分布が一致するまで漏水の幅・深度を変えて行う。

成果の活用面・留意点

  • 温度センサとデータロガー、熱伝導シミュレーションソフトを購入すれば、ため池を管理する市町村や土地改良区等の現場技術者が自ら実施できる手法である。
  • 複数の測線を堤体上に設定することにより、堤体全体の漏水経路を推定できる。

具体的データ

図1 作業の流れ

図2 逆解析による漏水の推定

図3 シミュレーションに用いたため池堤体(断面図)

図4 調査実施ため池の概要(香川県・青池)

その他

  • 研究中課題名:農村地域における健全な水循環系の保全管理技術の開発
  • 実施課題名:ため池等の安定的水利用のための保全管理技術の開発
  • 実施課題ID:421-a-00-007-00-I-08-8701
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:吉迫 宏、小川茂男、島 武男
  • 発表論文等:吉迫(2008) 土壌の物理性、108:67-80