水田灌漑ブロックにおける農業排水路中の亜鉛濃度の変化特性

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要約

水田灌漑ブロックにおける農業排水路中の亜鉛(Zn)濃度の変化は、水利用や降雨によって影響を受ける。農業排水路中のZn濃度は濁度と正の相関を有し、土粒子等の懸濁物の供給によって排水路中のZn濃度は上昇する。

  • キーワード:重金属、水田、水利用、水生生物
  • 担当:農工研・農村環境部・水環境保全研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7546
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

農業排水路中の重金属は水生生物の生息環境の保全や安全な食料生産基盤を確保する上で重要な水質項目である。その中で亜鉛(Zn)は、低濃度で水生生物に慢性毒性を示すことが知られており、2003年に環境基準(河川および湖沼では0.03 mg/L以下)が定められている。しかし、農業地域のZnの動態は営農と水利用の影響を受けると考えられるが、農業用用排水路の水生生物保全の観点からのZnに関する情報はほとんどない。このため、水利用の期別変化が大きい水田灌漑ブロックを対象に、現地調査によって農業排水路中のZn濃度の変化を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 水田灌漑ブロックは茨城県つくば市の西部に位置する周囲を台地に囲まれた谷津田である。ブロックへの灌漑水は近傍の河川から取水され、パイプラインを経由してブロック最上流の流入地点に導水され各水田へ供給される。水田からの排水は、ブロック中央の農業排水路に集水され、ブロック末端の流出地点に到達する(図1)。
  • 降雨期間の流出地点におけるZn濃度変化は時期により異なり、降雨強度や降雨継続時間、降雨期間前の農業排水路中のZn濃度によって異なるパターンを示す(図2)。
  • 流出地点におけるZn濃度は濁度と正の相関を有しており、農業排水中への土粒子等の懸濁物の供給とともに上昇する傾向を示す。また、濁度に関わらず高いZn濃度を示す場合もあり、排水中では濁度に依存しない溶存性Znの濃度変化も存在する(図3)。
  • 降雨期間を除外した平常時における流出地点のZn濃度は流入地点に比較して、特に灌漑水の供給開始~代かき前の濃度が高く、これは非灌漑期間にブロック内に蓄積される土砂等の堆積物が灌漑水によって巻上げられることによる影響が強い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 農業排水路中へのZnの供給源を把握するためには、農業水利システム内への土粒子やZnの流出過程を明らかにする必要がある。
  • 本調査は、環境基準への適合性を評価するものではない。調査対象ブロックからの排水の環境基準点への影響を評価するためには、別途、通年の広域的調査が必要である。

具体的データ

図1 集水域の概要

図2 降雨期間のZn濃度の変

図3 流出地点におけるZn濃度と濁度の関係

表1 平常時の流入地点および流出地点における流量の重み付き平均Zn濃度

その他

  • 研究中課題名:農村地域における健全な水循環系の保全管理技術の開発
  • 実施課題名:農地と農業水利システムにおける微量物質の移動過程の解明
  • 実施課題ID:421-a-00-005-00-I-08-8501
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:人見忠良、吉永育生、三浦 麻、濵田康治、久保田富次郎、髙木強治、白谷栄作
  • 発表論文等:人見ら(2008)農工研技報、207:53-62