電磁波を用いた土壌水分計測のための黒ボク土の固相の誘電率

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要約

黒ボク土の固相の誘電率は5.6-6.1の値を示す。この固相の誘電率は、電磁波を用いた土壌水分計測を行うときの校正式を、混合誘電率モデルを用いて省力的に得ようとする際の入力値として使われる。

  • キーワード:土壌水分計測、黒ボク土、電磁波、誘電率
  • 担当:農工研・農地・水資源部 農地工学研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7553
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

近年、TDR等の電磁波を利用した土壌水分計測が広く普及している。計測値である誘電率を体積含水率に変換する校正式を省力的に得るために、しばしば混合誘電率モデルが使われる。混合誘電率モデルには、土壌の三相の誘電率を与える必要がある。
土壌の固相の誘電率は、炉乾土を容器に詰めて誘電率を測定し、二相系の混合誘電率モデルを使って逆推定して求められる(間接推定法)。しかし、間接推定法は使用する混合誘電率モデルにより推定値が大きく異なるという欠点を有するため(表1)、直接測定し、その値を確認する必要がある。
そこで、Robinson and Friedman (2003)により提案された粉体の固相の誘電率を直接測定する方法により、黒ボク土の固相の誘電率を測定する。この測定法は、固相の誘電率と同じ誘電率を示す溶媒を逐次探索するという単純な原理に基づいている(図1)。各種鉱物や砂壌土から粘土まで幅広い土壌の固相の誘電率測定に適用されている、簡便に行える直接測定法である。この直接測定法の黒ボク土への適用にあたり、団粒構造や結合水の影響についても事前評価を行う。

成果の内容・特徴

  • 黒ボク土の顕著な物理特性として団粒構造が発達しており結合水が多いことが挙げられる。団粒構造の破壊前後での測定および風乾土を用いた測定を行い、Robinson and Friedman (2003)により提案された測定法への団粒構造や結合水の影響を検討する。団粒構造の測定結果への影響は小さいが、風乾土を用いた測定値は炉乾土の場合の2倍以上となる(図2)。黒ボク土の固相の誘電率を精度良く求めるためには炉乾土を用いる必要がある。
  • 北海道芽室町および熊本県合志市より採取した黒ボク土の固相の誘電率の測定結果も茨城県つくば市で採取した黒ボク土と同様なものが得られる(図3)。
  • 今回、測定した黒ボク土の固相の誘電率は5.6-6.1の値を示す(表1)。
  • 間接推定法では黒ボク土の固相の誘電率を過大評価する傾向がある(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 黒ボク土地帯で土壌水分計測を行うときの校正式を、混合誘電率モデルを用いて省力的に得ようとする際の入力値として、研究者や技術者に活用される。
  • 黒ボク土の固相の誘電率について、その代表値と変動幅を得るためには、他地域の黒ボク土を用いた更なる測定が必要である。

具体的データ

図1 固相の誘電率の測定原理(複数の異なる誘電率の溶媒に乾燥密度が同一になるように試料を詰める。溶媒と混合体の誘電率を測定し、得られた関係を近似関数で表わす。近似関数と1:1線の交点が固相の誘電率となる。)

図2 団粒構造や結合水が固相の誘電率測定に与える影響(採取地:つくば)

図3 北海道、九州から採取した黒ボク土の固相の誘電率測定結果(炉乾土)

表1 黒ボク土の固相誘電率の測定結果と異なる混合誘電率モデルによる推定結果

その他

  • 研究中課題名:持続的利用可能な高生産性土地基盤の整備技術の開発
  • 実施課題名:水分や電気伝導度等の同時測定による農地土壌内の硝酸態窒素濃度推定手法の開発
  • 実施課題ID:412-b-00-002-00-I-08-5204
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2007~2008年度
  • 研究担当者:宮本輝仁、亀山幸司、塩野隆弘、上田達己、凌祥之
  • 発表論文等:1)Kameyama K., and T. Miyamoto (2008) Eur. J. Soil Sci. 59:1253-1259.