フィルダムの湛水挙動を再現できる飽和・不飽和変形解析手法

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要約

実ダム挙動との比較により、従来の解析では評価が困難であった土質材料の飽和に伴う沈下現象を再現できる変形解析手法の検証を行った。本手法を適用することで、フィルダムの築堤から湛水までの挙動を高い精度で再現できる。

  • キーワード:フィルダム、湛水挙動、飽和・不飽和、変形解析
  • 担当:農工研・施設資源部・構造研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7570
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

フィルダムの安全管理を合理的かつ効率的に遂行するためには、ダムの実際の挙動を解析等で事前に予測した挙動と比較して評価する必要がある。そのためにダムの挙動を正確に評価することが求められているが、それには、湛水時のダムの複雑な挙動の要因となる、上流堤体斜面及び基礎地盤に作用する水圧、浸透水による堤体内部での有効応力の変化、及び堤体材料の飽和化による物性の変化等を適切に評価できなければならない。
当研究室では飽和・不飽和変形解析手法を開発してきた。本研究では、実際のダムの堤体材料を用いてダムの築堤から湛水までの挙動を模倣した室内試験を実施し、その結果を用いて解析手法の検証を行う。さらに、実際のダムの挙動観測との比較による解析手法の検証を行う。

成果の内容・特徴

  • 既に開発した水分特性曲線モデルを組み入れた飽和・不飽和変形解析手法の三次元解析への適用性を検証するために、厳密解が得られている弾性圧密問題の基本的な三次元要素モデルへ適用した結果、圧密度および間隙水圧の経時変化は両者ともに厳密解と良好に合致している(図1)。
  • 実際のフィルダム堤体材料の強度・変形特性に関する本解析手法の再現能力を検証するために、実ダム堤体材料を用いて実施した、①飽和三軸圧縮試験、②不飽和三軸圧縮試験、③不飽和-飽和(試料を不飽和状態から浸水し、飽和状態に移行する)三軸圧縮試験(全て排水・排気条件)の3種類の実験結果について二次元要素モデルを対象に本手法を適用した結果、応力減少と体積ひずみ増加という浸水時の特徴的な挙動を全体としては良好に再現している(図2、図3)。
  • 実際のフィルダムの築堤から初期湛水までの挙動を対象に、二次元断面において本解析手法の検証を行った結果、ロックゾーンにおける沈下量が下流側よりも上流側で大きくなるという浸水効果を良好に再現している(図4)。
  • 以上から、本手法を適用することで、実際のダムの築堤から湛水までの挙動を精度良く再現し得る。

成果の活用面・留意点

  • ダム設計者および管理者が本手法を活用することで、フィルダムの湛水挙動評価および長期挙動評価の高度化が可能となり、合理的なダム管理に資することができる。
  • 現時点では適用事例が限られているため、他の土質材料への適用事例の蓄積が必要である。

具体的データ

図1 圧密度解析結果と厳密解との比較

図2 不飽和三軸圧縮試験(排水・排気条件)への解析適用結果例(σ3 =100,300,500(kPa)の順に、Sr =11.7,12.0,13.8(%))

図3 不飽和-飽和三軸圧縮試験(排水・排気条件)への解析適用結果例

図4 実ダムロック部の沈下解析例(Aダム、EL.=1,420m)

その他

  • 研究中課題名:農業水利施設の機能診断・維持管理及び更新技術の開発
  • 実施課題名:飽和・不飽和三次元圧密解析手法の開発
  • 実施課題ID:412-a-00-003-00-I-08-4301
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:田頭秀和、向後雄二、林田洋一、増川晋、中嶋(浅野)勇
  • 発表論文等:Kohgo Y., Asano. I. et al. (2007) Soils and Foundations 47(5):919-929