地盤中の比抵抗変化部の高精度検出法

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要約

電気探査の時系列データについて、比抵抗の増大部および低下部が混在する場合でも精度良く比抵抗変化部を抽出する解析法である。比抵抗変化に基づき、地盤中の導電性汚濁物質の流動部や濃集、希釈箇所等を非破壊で把握することができる。

  • キーワード:電気探査、比抵抗、飽和度、水質、非破壊
  • 担当:農工研・施設資源部・基礎地盤研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7576
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

農地の持続的利用を効果的に行うためには、農地内外に起因する地盤汚染に対し地盤中の汚濁物質分布を低コストで把握・予測する技術が必要である。導電性の汚濁物質の動態調査には、異なる時期に行った電気探査の解析結果を比較し、比抵抗変化部を抽出することが有効である。しかし、汚濁物質塊が流動するとその前後に比抵抗の低下部と増大部が同時に発生する場合があり、従来の解析方法では偽像の発生により変化部がうまく特定できないなどの問題点がある。そこで、両方向の比抵抗変化に対しても、偽像を低減し変化部を高い精度で求める手法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 電気探査の時系列データ解析において、2時期のデータを個々に逆解析する従来法に対し、差トモグラフィ法では正規化データを用いてデータノイズや逆解析毎の収束性の違いによる誤差や偽像を低減する。差トモグラフィ法によっても、例えば比抵抗低下部を補償するように比抵抗増大部が偽像として表れる場合があるが、比抵抗変化方向が1方向で既知の場合、逆解析において比抵抗モデルの変化方向を制約することにより偽像を低減できる。本成果では比抵抗の増大部および低下部が混在する場合にも対応できるように、常に両方向の制約を行い、逆向きの比抵抗変化の情報を持つデータはノイズとして無視するロバスト推定を用いて、逆解析の誤差を評価する(図1)。
  • 2次元地盤数値モデルとして100Ωm均質地盤の深度2mに、地下水流動部を模擬したサイズ2m×2m、比抵抗80Ωm低比抵抗部3個の分布を考える。この断面の地表に電極間隔1m、電極数40点の2次元電気探査測線を設定し、ダイポール・ダイポール電極配置による観測データを数値計算により求める。次に、3つの低比抵抗部について、両サイドを70Ωmに低下させ、中央を100Ωmに増大させた場合の観測データを計算し、従来型差トモグラフィ法によって変化方向を制約せず比抵抗変化率を解析した結果が図2である。3箇所の比抵抗変化部における比抵抗の低下および増大は把握できるが、周辺には偽像が残り、比抵抗変化部の特定は難しい。
  • 図3(a)、(c)は従来型差トモグラフィ法で両方向に制約を行った解析結果で、偽像が抑えられ、比抵抗変化部のみが抽出されるが、反復計算による解析誤差の低減は認められない(図4)。これに対し、改良差トモグラフィ法による図3(b)、(d)では、図3(a)、(c)同様に偽像を抑えられると共に、解析誤差を38~80%に低減できる(図4)。このように、提案手法によって逆解析の精度を向上することにより、地表から非破壊で地盤中の比抵抗変化部の位置を精度良く把握し、地盤中の導電性汚濁物質の流動部や濃集・希釈部を推定することができる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、硝酸性窒素に富む導電性汚濁水の流動把握等の農地の地盤環境を取り扱う試験研究機関、民間コンサルタントにおいて有効なツールとなることが期待される。
  • 本成果は数値モデル実験のため残差レベルが小さいが、実データでは数10%の残差が生じることがあり、その低減が期待される。また解析結果には実際の比抵抗変化率より鈍る傾向があるため、従来型差トモグラフィ法解析結果に対する偽像判定としての利用法もあげられる。今後定量化に向けて解析精度の向上を図る必要がある。

具体的データ

図1 電気探査時系列データ解析法の比較

図2 数値モデル実験の従来型差トモグラフィ法解析による比抵抗変化率分布図 比抵抗変化方向制約無し、□は比抵抗変化部

図3 比抵抗変化方向制約をかけた場合の従来型差トモグラフィ法と改良差トモグラフィ法による比抵抗変化率分布図の比較(変化率凡例は図2に同じ)

図4 解析条件による逆解析反復計算における残差変化の比較

その他

  • 研究中課題名:持続的利用可能な高生産性土地基盤の整備技術の開発
  • 実施課題名:3次元電気探査法による汚濁水の動態監視手法の開発
  • 実施課題ID:412-b-00-003-00-I-08-5301
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:中里裕臣、井上敬資、古谷保
  • 発表論文等:1)中里ら(2007)物理探査学会第116回講演論文集:155-156