長期間供用されたコンクリート水路の劣化の評価法

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要約

長期間水と接触しているコンクリート水路のコンクリート表層からは、カルシウム成分が失われている。この場合、表層が脆弱化し、凍結融解に対する抵抗性が弱まるとともに、補修材料との付着強度が低下する。

  • キーワード:コンクリート水路、カルシウム溶脱、凍結融解抵抗性、補修材料、付着強度
  • 担当:農工研・施設資源部・水利施設機能研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7573
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・普及

背景・ねらい

長期供用されたコンクリート水路に対して、近年、補修による機能回復が図られている。しかし、長期間水と接触するという特殊な環境条件下でのコンクリートの劣化メカニズムについては、十分な知見が得られておらず、補修の際、除去が必要となる脆弱部の推定方法が確立されていない。このため、コンクリートの脆弱部の除去が不十分となり、補修材料が十分に付着せず、施工後早期に浮き・はく離などの変状が発生している事例が散見される。本研究では、流水と接触するコンクリートが脆弱化するメカニズムを解明するとともに、それが凍結融解抵抗性や補修材料との付着強度に与える影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 長期間供用されたコンクリート水路からφ100mmの円柱コア試料を採取し、その断面を電子線マイクロアナライザーで分析した結果の一例を図1に示す。セメント硬化体を構成するカルシウムの濃度が通水表面で低下(以降、溶脱と略す)し、溶脱した領域に近接する深い領域に、硫黄の濃度が高い部分が存在する。
  • 全国の多様な環境条件のコンクリート水路から採取した円柱コア供試体のカルシウム溶脱の状況を図2に示す。ばらつきはあるが,水中部や底版部では、多いところで通水表面から20~30mmの深さまでカルシウムが溶脱しているコアも見られる。
  • モルタル供試体に直流電圧を作用させることによって強制的にカルシウムを溶脱させる装置を試作し、カルシウム促進溶脱試験を行った結果、水セメント比W/Cが低く、強度が高いモルタル供試体ほどカルシウム溶脱深さは浅くなる。
  • カルシウムを溶脱させたモルタル供試体(70×70×20mm、W/C=50%)を、-20°C~+20°C(気中凍結過程1時間、凍結保持過程1時間、水中融解過程1時間の1サイクル3時間)の凍結融解繰り返し環境に置いた結果、カルシウム溶脱面から逐次崩壊が生じる。比較対象としたW/C=50%の未溶脱モルタルの質量変化率は、100サイクル経過後で0.03%減少したのに対し、カルシウム溶脱モルタルでは1.4%減少し、健全なモルタル供試体と比較して、凍結融解に対する抵抗性が低下する(図3)。
  • カルシウムを溶脱させたモルタル供試体(70×70×20mm、W/C=50%)の表面に、コンクリート水路の補修によく用いられるポリマーセメントモルタル(プライマー処理有り)を施工し、単軸引張試験によって付着強度を評価した結果、比較対象とした未溶脱モルタル(W/C=50%)と比較して付着強度は1N/mm2程度低くなる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • ストックマネジメントにおける機能診断において、水と接触するコンクリートの劣化状況を示すひとつの指標として、カルシウム溶脱深さが活用できる。
  • あくまで実験室内の結果ではあるが、カルシウムが溶脱したモルタル供試体では、健全な供試体と比較して相対的に補修材料との付着強度が低下する。したがって、カルシウム溶脱深さは、補修前の前処理として行う高圧洗浄などによる表層はつり深さの判断基準を与える量として使用できる可能性があり、施工現場での活用が期待される。

具体的データ

図1 通水表面のカルシウム濃度分布(左)と硫黄濃度分布(右)

図2 供用年数とカルシウム溶脱深さとの相関

図3 凍結融解繰り返し環境での質量変化率の相違( W/C=50% )

図4 溶脱したモルタル供試体の付着強度

その他

  • 研究中課題名:農業水利施設の機能診断・維持管理及び更新技術の開発
  • 実施課題名:複合劣化環境におけるセメント系材料の化学的変質モニタリング手法の適用性評価
  • 実施課題ID:412-a-00-002-00-I-09-4202
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:森充広、渡嘉敷勝、森丈久、中矢哲郎