農村地域の公共サービスシナリオ作成のための市町村財政モデル
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要約
農村地域の人口予測モデルと一般会計・特別会計とを組み合わせた市町村財政モデルにより、過疎化に直面する地方自治体等の人口減少・高齢化の動向、財政収支、公共サービス水準等のシミュレーションとこれに基づく対策の評価・シナリオの作成が可能となる。
- キーワード:人口予測、市町村財政モデル、財政収支、公共サービス
- 担当:農工研・農村総合研究部
- 代表連絡先:電話029-838-7536
- 区分:農村工学
- 分類:技術及び行政・参考
背景・ねらい
過疎化や少子高齢化に直面する農村地域の自治体では限られた予算の下で多様な行政需要に対応する必要があり、地域の状況を客観的に把握し、確保できる財源と提供する行政サービスとの間のバランスの確保が重要な課題となっている。とりわけ、医療・福祉、地域交通、農業集落排水を含む上下水道等の対人的なサービス提供コストは、人口減少に比例して低減しないため、将来にわたる財政負担の増大を招く可能性があり、的確な将来予測と問題解決のための対策が必要となっている。そこで、人口動態や特別会計を加味した市町村財政モデルを作成し、将来人口予測の下で対人的な行政サービス提供に係る財政負担の定量的な評価・予測や対策シナリオの策定に資する。
成果の内容・特徴
- 財政モデルは、社会を構成する主要な相互依存関係にある変数を抽出し、それら変数の時間を通した変化を捉えることで、社会の構造変化を動学的に把握する手法である「システムダイナミクス(SD)技法」を用いて作成している。
- モデルは人口セクターと財政セクター(直接的な住民負担を伴う10会計)から成る(図1)。人口セクターは年齢3階級別(0~14歳、15~64歳、65歳以上)のコーホート要因法に基づいて推計が行われる。一方、財政セクターは一般会計部門と特別会計部門から構成され、特別会計部門は利用者の減少に伴い収入不足が生じた場合は、一般会計からの繰入金等を充当するものとしている。
- モデルを活用した山形県N町を対象としたシミュレーション(事例)によれば、2005年時点で約6,920人の町の人口は、30年後の2035年には約4,380人まで減少し、住民の約半数が65才以上の高齢者となる(図2)。また、人口減少の影響により歳入額が減り続け、2035年度には27億円(05年度比~42.9%)となる。一方、歳出は、人件費等の抑制措置が講じられるものの、病院や水道、バス事業などは利用者減少に伴って採算が悪化する。そのため、受益者負担額を将来にわたって一定としたケースでは、一般会計のこれら他会計負担率が44.6%(05年度:22.9%)に達するものと見込まれる(図3)。
- 出生率や歳入条件等の操作可能な入力条件を変えれば、様々なシミュレーションが可能である。これらの情報に基づき、公共サービスにかかる受益者負担や提供するサービスの水準の見直し、サービス区域の集約化・コンパクト化、あるいは周辺市町村との広域連携等も視野に入れた財政面からの対策シナリオの作成が可能となる。
成果の活用面・留意点
- 本研究の成果は、地方自治体等が中・長期的な財政予測に基づく地域の将来像・目標を検討するに際し、各種施策を導入・推進する上での一定の目安となる基礎的情報(人口予測、財政収支、公共サービス水準等)を提供し、対策シナリオの策定に資するものである。
- モデルは山形県N町を事例として作成している。他の市町村等にモデルを適用する場合には、会計の数・内容等について当該自治体の状況を踏まえた上でモデルを調整する必要がある。
具体的データ



その他
- 研究中課題名:農村地域の活力向上のための地域マネジメント手法の開発
- 実施課題名:公共サービスの提供及び集落機能の確保と集落の消滅・移転にかかる社会的コストの評価
- 実施課題ID:413-a-00-003-00-I-09-7317
- 予算区分:交付金プロ(地域管理)
- 研究期間:2007~2009年度
- 研究担当者:高橋順二、齋藤信也・石川敬義・渡辺裕則(荘銀総研)