地形条件等を考慮した地震時の開水路溢水リスク評価手法

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

水路近傍の地震動による斜面崩壊危険度評価モデル、1次元非定常開水路溢水モデルおよび2次元準定常用水氾濫モデルなどから構成される評価システムは、地形条件や災害シナリオに基づく用水路溢水による周辺地域の被害リスク値を評価できる。

  • キーワード:地震動、被害防止便益、用水路溢水、用水氾濫、年発生確率
  • 担当:農工研・農村総合研究部・広域防災研究チーム、農地・水資源部、施設資源部・基礎地盤研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7590
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

近年、大規模な幹線農業用水路が整備されている東海~四国等の地域にかけて、今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる地震リスクが高まっている。地形・地質・土地利用条件から水路近傍の斜面・地盤の崩壊に対する力学的解析と開水路内用水の流出などの災害シナリオを想定し、用水路が地震動などにより損傷を受け、大量の用水が周辺へ流出した時の2次災害としての経済的損失評価を可能とする(図1)。

成果の内容・特徴

  • 用水路からの用水流出計算用モデルとして、1次元非定常開水路モデルが適用できる。用水の流出は、水路基盤倒壊による局所的な流出シナリオおよび斜面崩壊にともなう水路閉塞による流出シナリオを想定する。1次元開水路モデルは、地震被災後の管理者による事後保全として用水路上流部でのゲート閉塞操作を考慮できる。
  • 全国を概観した地震動予測地図より、地震発生の確率の高い事例地域を研究対象として、評価には施設情報管理の基本機能を有する水路GIS基盤(たとえば、農地基盤情報等)を活用する。水路近傍の斜面崩壊と水路基盤の崩壊危険度を評価するモデルとして無限延長斜面を仮定した安全率算定式を用いて、土質データとしてC(粘着力)、φ(内部摩擦角)をシミュレーションによりばらつかせてθ(斜面傾斜度:標高データより算定)および想定地震による推定加速度分布ごとの斜面崩壊確率曲線を算定できる。東南海地震などの地震動予測を入手できれば、評価地区の用水路に沿う各土地メッシュの斜面崩壊確率を算出できる(静岡県O川用水地区事例:図2)。
  • 1次元開水路モデルと2次元用水氾濫モデルは、GIS基盤にオーバーレイできる(図3)。用水氾濫モデルでは、開水路溢水モデルで演算した流出ハイドログラフからメッシュ間の連続式とマニング則から構成される簡易差分式に基づいた平面2次元流解析により、近傍の土地メッシュごとの水路倒壊後の湛水深と流速などを時間ごとに計算し、GISモデルにデータを引き渡す(図4)。土地メッシュには、①標高、②等価粗度係数、③家屋面積率(目視判断入力)、④溢水損失率(溢水した用水が中小河川や排水路へ流出する割合であり、その配置を考慮して評価)を入力できる。
  • 家屋等被害額算定システムでは、年間の水路流下流量ごとに演算された最大湛水深から被害評価額が算定できる。供用期間中の年地震発生確率(地震ハザードステーション)、想定地震による水路近傍などの斜面崩壊確率および水路流下流量の年間発生確率から、対策を行った場合の年平均の被害防止期待値を算出することができる。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は、地震の発生確率が高く予想され、地域の高位部に路線が配置された大規模幹線水路(開水路)の施設管理主体や関係行政部局のリスク評価に活用が期待される。
  • 評価の対象とする水路流下流量の年間発生確率は、用水計画から判断して約10年間程度の通水実績から求めることが望ましい。

具体的データ

図1 リスク評価の処理フロー図

図2 水路閉塞の可能性があると判断された水路箇所と斜面崩壊確率

図3 各種評価モデルとGIS基盤

図4 用水氾濫モデルの演算結果

その他

  • 研究中課題名:地域防災力強化のための農業用施設等の災害予防と減災技術の開発
  • 実施課題名:水路近傍の地形条件及び土地利用を考慮した災害リスクの評価とLCC手法による最適対策手法の統合化
  • 実施課題ID:412-c-00-003-00-I-09-6304
  • 予算区分:交付金プロ(地震リスク)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:中達雄、井上敬資、中里裕臣