地震時におけるコンクリート水路目地部の損傷メカニズム

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要約

新潟県中越沖地震で確認されたコンクリート水路の目地部損傷は、水路躯体に埋め込んで設置された止水板が、地震によって水路縦断方向に圧縮されることにより、横断方向にふくれたり、うねったりして、周りのコンクリートを押し広げることにより発生する。

  • キーワード:地震、コンクリート水路、目地、止水板、ひび割れ、破壊試験
  • 担当:農工研・施設資源部・水利施設機能研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7572
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

平成19年(2007年)新潟県中越沖地震では、現場打ちコンクリート水路において目地部に損傷が集中している被害実態が明らかとなった。目地部の損傷形態の大部分はコンクリートの剥落や止水板の端部から伸びるひび割れであり(図1)、損傷の発生には止水板の影響が想定される。本研究では、目地部を模擬した供試体を用いて破壊試験を行うことにより、現地水路の損傷を再現し、地震時における現場打ちコンクリート水路の目地部損傷メカニズムを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 地震時に止水板端部を基点としたひび割れが発生するメカニズムを解明するため、現場打ちコンクリート水路の目地部を模擬した供試体(530×150×150mm)を作製して、圧縮試験を行った結果を図2に示す。静的な圧縮試験においても、新潟県中越沖地震で見られた、止水板端部を基点とするひび割れが再現できる。
  • 目地部を模擬した供試体を長軸方向(図2では縦方向)に圧縮すると、コンクリートに挟まれた厚さ10mmの柔らかい目地材(ゴム発泡体製)が厚さ1~2mmにまで押しつぶされ、止水板(軟質塩化ビニル製)が8~9mm圧縮される。このため、止水板自体が短軸方向(図2では横方向)にふくれたり、うねったりすることによって、周りのコンクリートを押し広げている状況が確認される。
  • 図2に示すように、止水板をまたぐ部分(目地材から上下に25mm離れた位置)および止水板から離れた部分(目地材から上下に100mm離れた位置)にπ型変位計を設置し、圧縮試験時の短軸方向への変位量を求めた結果、止水板をまたぐ部分では約0.2~0.3mm、止水板から離れた部分ではその約半分程度、外側に広がる挙動を示す(図3)。さらに、このときの変位は、目地材が押しつぶされて圧縮応力が5N/mm2程度作用した時点で急激に発生する。
  • 以上の実験によって解明されたコンクリート水路の目地部損傷メカニズムを図4に示す。地震によって止水板が水路縦断方向に圧縮されることにより、止水板自体が横断方向にふくれたり、うねったりして、周りのコンクリートを押し広げる。その結果、コンクリートの引張強度を超える引張応力が生じ、止水板端部から二股に裂けるようにひび割れが発生する。

成果の活用面・留意点

  • 地震時の目地部損傷における埋込式止水板の影響が明らかとなったため、コンクリート水路の耐震診断において埋込式止水板の有無を評価項目とすることや、目地部の耐震対策工法を開発する場合の参考として活用できる。
  • 本研究成果で示す破壊試験の結果は、圧縮試験機による静的載荷試験によるものであり、地震時の躯体同士の衝突現象や急激な圧縮作用を再現していないため、衝撃試験による目地部損傷メカニズムの検証が必要である。

具体的データ

図1 新潟県中越沖地震における水路目地部の損傷状況

図2 破壊試験の状況

図3 圧縮応力と短軸方向の変位の関係

図4 目地部損傷メカニズム

その他

  • 研究中課題名:農業水利施設の機能診断・維持管理及び更新技術の開発
  • 実施課題名:大規模地震動に対する農業用水路の構造機能評価手法及び耐震対策工法の開発
  • 実施課題ID:412-a-00-005-00-I-09-4503
  • 予算区分:交付金プロ(地震リスク)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:森丈久、森充広、渡嘉敷勝、中矢哲郎