豪雨リスクを考慮した老朽ため池のライフサイクルコスト評価手法

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要約

流出解析と飽和不飽和浸透流解析、すべり安定解析法を組み合わせた安全性評価手法により、豪雨リスクを考慮したため池の決壊確率およびライフサイクルコストを算出できる。これより、老朽ため池の最適な改修工法・減災対策法を決定することができる。

  • キーワード:ため池、ライフサイクルコスト(LCC)、豪雨、決壊確率
  • 担当:農工研・施設資源部・土質研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7575
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

近年、ゲリラ豪雨等の集中豪雨の増加とため池下流域の混住化により、ため池堤体の安全性の向上が求められている。一方で、逼迫した国・地方自治体の財政状況から、改修の低コスト化が必要となっている。本研究は、少ない改修コストでため池下流域の安全性を最大限に向上させることを目的として、豪雨リスクを考慮したため池のライフサイクルコスト(以下、LCC)を評価する手法を開発する。さらに、このLCC評価手法を用いて、ため池の最適な改修方法または減災対策法を選定する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 豪雨リスクを考慮したため池のLCCの算定フローを図1に示す。LCCはため池の規模や状態、下流の状況、想定される確率降雨量により大きく異なる。
  • 豪雨時におけるため池の決壊確率を算出する方法を以下に示す。①ある確率降雨量を入力値として、貯留関数法による流出解析を行い、貯水位を計算する。貯水位が天端を超えると、越流決壊が発生すると判定する、②算出された貯水位と確率降雨量を入力値として、飽和不飽和浸透流解析およびすべり安定解析(飽和化による土の強度低下を考慮)を行い、すべり破壊発生の判定および崩壊土量の算定を行う(図2は2004年の台風23号豪雨時の仮想ため池における貯水位および安全率の時間変化の算出結果)、③以上の解析を、10年~200年確率の雨量を入力値として実施し、確率雨量とため池の貯水位および安全率との関係を求めることにより、豪雨リスクを考慮したため池の損害額とその発生確率を算定することができる(図3)。
  • 算出された被害の発生確率とため池が決壊した場合の損害額および改修コストから、LCCを以下の式で算出することができる。 LCC = 改修費CI+ メンテナンス費CM + 単年度リスクR×供用年数N ここで単年度リスクRは図3において損害額と発生確率を乗じ、0mmから無限大までの降雨量で積分することによって求められる。図4は、仮想ため池おいて、LCC算定時点からの供用期間に発生するトータルのLCCを示している。
  • 種々の改修工法または減災対策法を選定した場合のLCCを比較することにより、簡便に対策手法を選定することが可能である。図4の評価例ではソフト対策では緊急放流孔を用いた貯水位管理、ハード対策では法先ドレーンとソイルセメントの簡易洪水吐を組み合わせた工法が最適な対策手法であると選定できる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果はため池改修にかかわる国、県、市町村、またはため池を管理する団体が、豪雨リスクを想定したため池の安全性評価、改修工法および管理手法の選定に用いることができる。
  • 最終的な改修方法や減災対策法の決定には、本成果のLCC算出結果を参考として、種々の社会条件、下流域の合意形成を基に決定されるべきである。

具体的データ

図1 ため池の LCC 算定フロー

図2 豪雨時の貯水位・安全率の変化の解析例

図3 確率降雨に対する損害額の算定

図4 種々の改修工法・減災対策工法における LCC 算定結果の例

その他

  • 研究中課題名:地域防災力強化のための農業用施設等の災害予防と減災技術の開発
  • 実施課題名:大規模地震動および豪雨のリスクを考慮したLCC手法によるため池・老朽化フィルダム等、土質構造物の機能評価、最適改修手法の開発
  • 実施課題ID:412-c-00-007-00-I-09-6708
  • 予算区分:交付金プロ(地震リスク)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:堀俊和、谷 茂