補酵素キノンによる微生物の脱窒反応速度の評価技術の開発

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要約

水田排水の栄養塩・有機物を除去する水質浄化装置内の木炭に付着する微生物の脱窒反応速度は,キノン種のQ-8、MK-6、MK-8含有量と関係があり,脱窒反応速度は,これらのキノン含有率を説明変数とした重回帰式で評価できる。

  • キーワード:窒素除去、キノンプロファイル、バイオマーカー
  • 担当:農工研・農村環境部・水環境保全研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7546
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

水環境の富栄養化防止のため、農地から栄養塩類の負荷が排出されないようにする必要がある。水質浄化に木炭の利用がなされており、水田から排出される栄養塩・有機物の除去を目的として、木炭を利用した窒素除去水質浄化装置を平成18年度に開発した。脱窒による窒素除去には、微生物の関与が大きい。そこで、開発した装置内の木炭表面に付着する微生物による生物学的脱窒の反応速度を室内実験で評価すると共に、木炭表面からキノンを回収・分析して,キノン組成(キノンプロファイル)を利用して微生物群集構造を評価する。ここで、キノンとは微生物が呼吸鎖の補酵素として利用している物質であり、微生物種や呼吸レベルに依存するため、バイオマーカーとして利用されている物質である。

成果の内容・特徴

  • 窒素除去水質浄化装置は,3段に折りたたまれ,木炭で充填された水路からなる。栄養塩類を含む水は,この水路を通過中に木炭に付着する微生物による脱窒で浄化する。装置中の木炭チップを採取してキノン分析(図1)を行うと、キノン組成のなかで平均含有率が10%を越えて高いのはQ-8、Q-10、MK-6、MK-8、MK-8(H2)である(図2)。
  • 装置内における微生物群集構造の時間変化や場所による非類似度(D)は,多くが季節変動程度の小さな変動程度の値である(表1)。このことは装置内の微生物が時間,位置で微生物群集構造を大きく変化させることなく、ほぼ同じであることを示す。
  • 脱窒速度確認試験(図1)の結果をもとに、脱窒速度(DNR)に対してキノン含有率を説明変数として変数増加法により重回帰分析をすると、Q-8(P値:0.01)、MK-6(P値:0.15)、MK-7(H2)(P値:0.02)、MK-8(P値:0.06)を説明変数とした次の回帰式が得られる(図3)。
    DNR=-27.86+1.10QQ-8+0.40QMK-6+3.57QMK-7(H2)+0.75QMK-8 (補正R2=0.51)
    Q-8、MK-6、MK-8の平均含有率が10%を超えていたのに対して、MK-7(H2)の平均含有率が1.0%と非常に小さいことから、Q-8、MK-6、MK-8を含む微生物が木炭表面での脱窒反応速度に強く関係すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • キノンをバイオマーカーとした微生物群集構造解析は化学的な手法であり、分析に生物学的な知識を必要としない。
  • 微生物種が持つ主要なキノンが既知であるため、さらに研究を進めることで特定の微生物を増殖させて脱窒効果を向上させる技術開発に結びつく可能性がある。
  • 現段階では解析対象としたデータが限られており、今後、様々なサンプルを対象としてデータを蓄積することで精度を更に高める計画である。

具体的データ

図1 水質浄化装置の構造と脱窒速度評価試験、キノン分析法の説明図

表1 各キノン組成間の非類似度の比較

図2 キノン組成の時間変化の例

図3 脱窒速度の測定値と重回帰式による計算値の比較

その他

  • 研究中課題名:農村地域における健全な水循環系の保全管理技術の開発
  • 実施課題名:木炭を利用した水質浄化装置内での微生物群集構造の解明
  • 実施課題ID:421-a-00-006-00-I-09-8602
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:濵田康治、三浦 麻、人見忠良、吉永育生、久保田富次郎、髙木強治、白谷栄作