在来作物の保全・活用による地域活性化手法

要約

固有性の高い地域資源である在来作物について、歴史・文化的背景を歴史資料や地理空間情報の解析に基づき地域住民に周知し、保存組織を核とした保全・活用の実践をコーディネートすることにより、都市住民を含む多様な主体が参画可能な活性化手法となる。

  • キーワード:在来作物、地域資源、歴史資料、保存組織、都市農村交流
  • 担当:農工研・農村総合研究部・都市農村交流研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7558
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

近年、地域固有の食文化の見直しや地産地消への機運の高まりによって、都市近郊地域を中心に、在来作物の商品化が進展している。その一方で、山間部や離島等では、担い手の高齢化などの理由から、在来作物が消滅しかねない危機に瀕している。
本研究では、在来作物を地域固有性の高い地域資源と位置づけ、農村地域が歴史的過程の中で蓄積してきた地域資源を継承・発展させることにより、農村地域の活力向上を図るための新たな視点と手法を得ることをねらいとする。具体的には、山梨県北都留郡丹波山村に残る在来種ジャガイモ(つやいも、落合いも、ケネベック)を事例とし、その歴史的過程と現在における残存状況を把握した上で、農地の保全状況を踏まえつつ、その保全・活用の手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 歴史資料・聞き取り調査により、在来作物栽培の歴史的展開や伝承、栽培実態と農地の保全状況等について提示する(図1)。また、在来作物の歴史的様態と残存・消滅の現状について、地理空間情報解析により、歴史資料を地図化して提示する(図2)。
  • 在来作物の歴史的様態と現在における栽培実態に関する調査結果を、講演会やパネル展示等の普及活動を通して、地域住民や都市住民に解説する(図1)。素材として在来作物を用いることは、住民が地域の自然条件や歴史的背景、地域資源の特性を理解しやすくする上で有効である。
  • 地域住民の発意と自治体の支援による在来作物の保存組織の設立と具体的な活動内容についてコーディネートする(図1)。保存組織が主体となった在来作物の保全活動により、栽培数の増加が図られる(図3)。
  • 保全活動と並行して、在来作物の直売所等での販売に加え、都市農村交流イベント、食農教育等で活用する(図1)。これにより、都市住民を含む多様な主体の参画が促されるとともに、食文化・農業技術の継承や在来作物の観光資源化、小規模・急傾斜で大規模な基盤整備が困難な耕作放棄地の利活用、農村環境の維持等、地域活性化に資する多様な効果を発揮することができる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、地域住民の創意と在来の技能をもとにして、比較的低コストで実施可能な点、在来作物の保全を端緒として多様な効果が期待できる点などから、特に過疎高齢化が著しい山間部や離島などにおける地域活性化の手法として活用が期待できる。
  • 歴史学分野以外の研究者や自治体職員でも、地域農業の歴史的様態が把握可能な、歴史統計等の選択、歴史資料の活用に向けた方法・留意点などを整理して提示できるようにすることが今後の課題である。

具体的データ

従来作物の保全活動による地域活性化手法の流れ

歴史資料の解析結果の一例従来種ジャガイモの栽培株数の変化

従来作物の保全活動により期待される地域活性化への効果

その他

  • 研究中課題名:農村地域の活力向上のための地域マネジメント手法の開発
  • 実施課題名:都市農村交流に資する地方野菜品種の抽出とその商品化による地域活性化手法の開発
  • 実施課題ID:413-a-00-004-00-I-10-7417
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2009~2010年度
  • 研究担当者:坂根 勇、清水克志、山下裕作(熊本大文)
  • 発表論文等:1) 清水(2009)歴史地理学、51(4): 1-22
                      2) 清水(2010)農業農村工学会講演要旨集: 138
                      3) 清水ら(2010)農業農村工学会東北支部研究発表会講演要旨集: 94