水路の維持管理への労力提供意欲を向上させる要因の選択方法

要約

水路の維持管理を担う組織において、労力提供意欲を向上させるため構成員に働きかける場合、地域用水機能の認知度などが意欲に大きな影響を与える要因なので、それらを高める働きかけの内容から検討を始めると効果的である。

  • キーワード:維持管理、労力提供意欲、構成員、要因選択
  • 担当:農工研・農村計画部・事業評価研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7667
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

近年、農地や農業用水といった資源の良好な保全等を図る地域ぐるみでの共同活動を行う組織(以下「活動組織」という。)に対して、国による支援が行われている。共同活動の中でも用排水路の維持管理は、それをしなければ農地へ水を供給・排除し、農業・農村の持つ多面的機能を維持することができないことから、持続的に行う必要がある。また、農家・非農家から構成されている活動組織の構成員は、活動へ参加しようと思う気持ち(以下「労力提供意欲」という。)がなければ持続的には参加しないので、活動組織が持続的に維持管理を行うためには、構成員の労力提供意欲を高める働きかけが重要である。そこで、国による支援を受けて用排水路を維持管理する活動組織において、構成員の労力提供意欲を向上させるために働きかける要因の選択方法を示す。

成果の内容・特徴

  • 構成員の労力提供意欲に影響を与える要因を、先行研究の知見をもとに整理・検討すると、意欲には、農業用水に対する受益意識、維持管理に対する必要性意識、農業用水に対する関心が影響を与え、それらには、農業用水の利用経験、地域用水機能の認知度、関係イベントへの参加経験、地域に対する愛着、地域的対抗関係の理解度が影響を与えると考えられる(図1)。
  • 労力提供意欲を向上させるため構成員に働きかける場合、初めに上記の8つの要因を指標として質問紙調査を行い、得られたデータを統計手法により分析して意欲に与える影響の度合を評価し、大きな影響を与える要因から順次選択して働きかける内容を検討すると効果的であると考えられる。
  • 具体例として、混住化が進む山形県S地区において、活動組織の構成員のうち維持管理への参加促進が求められている兼業農家、土地持ち非農家などを対象とした質問紙調査から得られたデータを統計手法(数量化2類)により分析・評価すると、意欲に与える影響の大きさは、維持管理に対する必要性意識が1位、農業用水に対する受益意識が2位である(表1)。また、それらに最も大きな影響を与える要因は、地域用水機能の認知度である(表2)。したがって、S地区では地域用水機能の認知度を高める働きかけの内容を検討することが、構成員の意欲を向上させるために効果的であると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 活動組織の構成員代表が、水路の維持管理への参加を促すため構成員に働きかける場合に、本成果で示した方法と指標を用いて働きかける要因を選択すると、どの要因に対する働きかけの内容から検討を始めるべきかを判断することができる。組織の参加人数と構成によっては、兼業農家、土地持ち非農家、非農家といった対象者種別に本手法を適用することも考えられる。
  • 本成果で示した数値や、労力提供意欲に大きな影響を与える要因は、特定の事例地区における結果であり、一般性は有していない点に留意する必要がある。

具体的データ

構成員の労力提供意欲に影響を与える要因

各要因が労力提供意欲に与える影響の大きさ

各要因が必要性意識、受益意識に与える影響の大きさ

その他

  • 研究中課題名:農村地域の活力向上のための地域マネジメント手法の開発
  • 実施課題名:農業水利施設の共同管理の支援に対する評価指標の開発
  • 実施課題ID:413-a-00-003-00-I-10-7321
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:鬼丸竜治、國光洋二、合崎英男
  • 発表論文等:1)鬼丸ら(2010)農業農村工学会東北支部第53回研究発表会講演要旨集: 60-61