中山間水田の耕作放棄が小流域の流出特性に及ぼす影響

要約

土地利用・水田管理が異なる中山間地での水文観測結果から、ピーク流出係数、流域保留量、直接流出率等の短期流出特性を評価する。耕作・放棄水田主体流域の流出特性は流域の乾湿状態で異なり、湿潤状態で放棄水田主体流域の洪水流出の増大が見られる。 

  • キーワード:中山間水田、耕作放棄、水田管理、流出特性、小流域
  • 担当:農工研・農地・水資源部・水文水資源研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7538
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

中山間水田の耕作放棄の進行に伴い、水田が有する洪水緩和、斜面崩壊防止、水資源涵養等の流域保全機能の機能低下が懸念されている。中山間地における耕作放棄水田と耕作水田の流出特性の違いは、これまで主に水田一筆から数筆を単位とし、畦畔や水尻口の形状の変化や水田の土壌物理特性の変化に着目した検討が行われてきたが、水田以外の土地利用を含む流域スケールの流出特性の変化については未検討で、耕作放棄の影響範囲は明らかにされていない。そこで、土地利用や水田の耕作状態が異なる複数の小流域での水文観測に基づき、中山間水田の耕作放棄が流出特性に及ぼす影響を評価する。

成果の内容・特徴

  • 広範囲に棚田が広がる東頸城丘陵(新潟県上越市)において面積約1km2で流出特性の比較が可能な14流域を抽出し、土地利用(森林(自然林)・水田)、水田耕作状況を把握する。抽出した流域から耕作水田、耕作放棄水田、森林の面積率が最大のものを試験流域(耕作水田主体・放棄水田主体・森林流域)とする(図1、森林流域は面積0.47km2、森林面積率95.7%)。水田の土性は重粘質であり、乾燥して田面に亀裂が入ると保水力が極端に低下するため、収穫後も水を張って水田土壌の乾燥を防ぐ。放棄水田は放棄後10~15年経過しており、湿潤状態で森林への遷移は進んでいない。
  • 3年間の観測降雨、流出データ(10分間隔)から、一雨雨量20mm以上かつ降雨強度5mm/h以上の26降雨を対象に直接流出率(直接流出量/一雨雨量)および流域保留量(一雨雨量-直接流出量)を、さらに降雨流出波形が単峰形でピークが明瞭な7降雨を対象に洪水到達時間、ピーク流出係数(洪水到達時間内の有効降雨強度/平均降雨強度)を算出し、流域間で比較する。
  • ピーク流出係数の最大値は7日間の先行降雨量140mm、日雨量の再起確率5年の降雨(一雨雨量65~80mm、最大降雨強度27~35mm/h)で得られ、耕作水田主体流域0.24、放棄水田主体流域0.30となる(表1)。この条件下で両流域に同一の降雨が発生した場合、放棄水田主体流域のピーク流量が耕作水田主体流域の1.25倍となる。
  • 耕作・放棄水田主体流域の直接流出率は降雨ごとに大小関係が異なり、降雨前7日間の先行雨降雨量が100mm以上の湿潤状態で両者の直接流出率に差が生じ、最大31.4%となる(図2)。他方、乾燥状態にあるときには耕作放棄の影響は無視しうるか、耕作水田主体流域の流出が放棄水田主体流域より高まる可能性がある(同図中点線部)。また、森林流域の直接流出率は耕作・放棄水田主体流域と比較して小さい。
  • 耕作水田主体流域と森林流域の最大流域保留量はそれぞれ61mm、64mm(データ非表示)で同程度であるが、放棄水田主体流域では52mmとなる。最大の面積である森林の影響が大きく、耕作放棄の進行により最大流域保留量は約10mm低下する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 流域保全機能を活用した流域管理や中山間地対策の施策への参考データとなる。
  • 上記の流出特性は対象地域の水田土壌、管理を反映したものである。

具体的データ

試験流域の概要

観測で得られたピーク流出係数

先行降雨量に対する直接流出率の比較耕作水田・放棄水田主体流域における 流域保留量の比較

その他

  • 研究中課題名:農村地域における健全な水循環系の保全管理技術の開発
  • 実施課題名:中山間小流域の流出特性からみた限界集落化と流域保全機能の相互影響評価
  • 実施課題ID:421-a-00-004-00-I-09-8403
  • 予算区分:交付金プロ(地域管理)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:吉田武郎、増本隆夫、堀川直紀
  • 発表論文等:1) 吉田ら(2010)水文水資源学会2010年度研究発表会要旨集: 56-57
                      2) 吉田ら(2009)農業農村工学会大会講演会講演要旨集: 262-263