まさ土地帯の棚田における土壌流出の実態

要約

水稲慣行作が行われているまさ土地帯の観測棚田では、土壌侵食深換算で0.5mm/年の土壌流出が生じている。年間土壌流出量の69%は一連降雨時に生じているのに対し、田植期を含む代かきとその前後期間の土壌流出量が占める割合は3%と少ない。

  • キーワード:土壌流出、水田、棚田、土壌流亡予測式
  • 担当:農工研・農地・水資源部・土地資源研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7671
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

水田は土壌面が水平であることや土壌侵食の大きな要因である雨滴の衝撃エネルギーが水面で吸収されることから、高い土壌保全機能を持つとされている。しかし、濁水の流出が問題となる代かき期だけでなく、年間を通じて水田からの土壌流出を観測した事例は少なく、観測データに基づいて水田の土壌保全機能を定量化した事例は乏しい。そこで島根県出雲地方(まさ土地帯)の棚田を対象に、観測データと同時に土壌流亡予測式の係数を提示し、観測棚田の土壌流出の実態を明らかにする。

 

成果の内容・特徴

  • 観測棚田は島根県出雲市内に位置する小区画の棚田(圃場整備済)である(図1)。作土はまさ土を主体とし、田面は夏作においては水稲作(慣行作)として湛水状態(中干し期と稲刈り前を除く)、冬作は不作付として裸地状態(不耕起)で維持されている。観測棚田は一部期間を除いて降雨時以外も湧水による流出水が生じている。流出水は湛水時には排水口の堰板を越流して、非湛水時には田面から直接排水される。

  • 観測棚田の年間土壌流出量(欠測期間分を除く)は143.8kg(観測棚田全体に対する土壌侵食深換算で0.5mm)である。年間土壌流出量の68.5%は一連降雨時に生じている。一方、代かきとその前後期間(田植期を含む)に発生した土壌流出量は年間土壌流出量の3.2%と少ない(表1)。現地観察の結果、観測棚田を構成する周囲の法面は年間を通じて枯れ草を含む密な植生に覆われており一連降雨時にも土壌の流出や崩落は生じていないこと、排水に伴う田面の洗掘は生じていないこと、また雨滴の衝撃による濁水は生じていないことから、一連降雨時の土壌流出は田面内で生じていることがわかる。土壌の流出は湧水の発生と密接に関係する現象であると考えられる。

  • 一連降雨時の土壌流出量と降雨侵食指数の間には高い相関(相関係数0.96)が認められるため(図2)、観測棚田においてUSLEに準拠した「土地改良事業計画指針 農地開発(改良山成畑工)」の土壌流亡予測式を適用する。観測棚田の作物係数Cと保全係数Pの分離は得られたデータのみではできないこと、分離しなくても実用上の問題はないことから、両者の積である作物・保全係数CPを求める。作物・保全係数CPは観測によって得た流亡土量Aと土地改良事業計画指針で示された土壌流亡予測式の係数決定方法に基づき畑地に準じて求めた降雨係数Rと土壌係数K、地形係数LSにより、土壌流亡予測式から逆算して求める(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 求めた土壌流出量と作物・保全係数CPは水田の土壌保全機能に係わる調査業務や農地の持つ土壌侵食防止機能量評価において活用できる。
  • 水田への土壌流亡予測式の適用性と作物・保全係数CP等の水田(水稲作)の係数については、降雨や土壌、水管理等の異なる多数の水田における観測データを用い、さらに検討を行う必要がある。

具体的データ

観測棚田の概要

観測棚田における土壌流出量降雨侵食指数と土壌流出量の関係

求めた土壌流亡予測式の係数値

その他

  • 研究中課題名:農村地域における健全な水循環系の保全管理技術の開発
  • 実施課題名:農地・ため池等の資源管理の粗放化が国土管理に及ぼす影響評価と対策の解明
  • 実施課題ID:421-a-00-004-00-I-09-8404
  • 予算区分:交付金プロ(地域管理)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:吉迫 宏、福本昌人、小川茂男
  • 発表論文等:1) 吉迫ら(2009)システム農学、25(4): 205-213