異常洪水時における高密度ラビリンス堰の放流能力

要約

高密度ラビリンス堰について異常洪水時の放流能力の推計法を提示する。高密度ラビリンス堰は、異常洪水時に、堰頂以下の比較的低い下流水位上昇でも放流能力が変化する。放流能力の大きさは±5%以下で推計出来る。

  • キーワード:ため池、改修、側水路、堰、ラビリンス堰、下流水位
  • 担当:農工研・施設資源部・水源施設水理研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7564
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

従来の直線堰よりも放流能力が高い堰として、これまで海外を中心にラビリンス堰が開発され、ダム、取水堰、水路系に現地適用されてきた。このラビリンス堰を日本の狭窄地形に合わせて更に改良したものとして高密度ラビリンス堰がある。高密度ラビリンス堰は通常のラビリンス堰よりも放流能力が高いので、比較的狭窄な地形でも大流量を放流出来る利点がある。しかし、異常洪水等により堰下流水位が上昇した場合の放流能力は解明されていない。通常のラビリンス堰では下流水位が堰頂標高を越えるまでは、下流水位の放流能力への影響が無いことが明らかにされている。高密度ラビリンス堰では、高密度ゆえ、それよりも低い水位から下流水位の影響が生じる可能性があるうえ、下流水位が堰頂を越える場合の放流能力も定量的に解明されていない。そこで、本研究では高密度ラビリンス堰について、下流水位の影響を評価し、放流能力の推計法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 下流水位(セキ上げ比)による高密度ラビリンス堰の放流能力(流量係数)、越流流況の変化特性を解明した(図1)。
  • 高密度ラビリンス堰では、下流水位が堰頂標高以下(セキ上げ比が1以下)でも放流能力が変化する(図1)。放流能力に対する下流水位の影響は無視しえない。
  • 越流流況は下流水位上昇に伴い、堰からの放流水脈背面にエア域が出来る「給気状態卓越流況」から、エア域が消失する「非給気状態卓越流況」に変化し、両者の間の「遷移状態卓越流況」で放流能力の変化が起き始める(図1)。
  • 「遷移状態卓越流況」(図1)では放流能力の不安定化も起きるが、その程度は実用上問題ない範囲に止まる。
  • 放流能力は、下流水位が堰頂標高以下の場合、下流水位上昇に伴い一旦増大する場合と漸減する場合がある(図1)。前者の場合、放流能力増大は最大10%程度となる一方、下流水位が堰頂標高に接近して以降は放流能力急減となるので、異常洪水時の決壊リスクは高くなる。
  • 両者の差異は、遷移状態卓越流況における放流水脈背面エア域の消失速度の差異に依ると考えられ、前者は下流水位上昇時にエア域が消失しにくい反面、ある水位を超えると急激に消失していく傾向が見られる。
  • 下流水位を考慮した高密度ラビリンス堰の放流能力推計式(流量係数推計式)を提示した。この式による放流能力の予測精度は、図2に示すように概ね±5%以下に収まる。

成果の活用面・留意点

  • 直線堰よりも下流水位が比較的低い時点(堰頂標高程度)から放流能力の急低下が始まるので、従前設計指針通り、堰全幅でそうならないように用いるべきである。
  • 成果の受け渡し先は、水路や取水堰、ため池、ダム改修(ゲートレス化)など農業水利施設の整備、改修を担う国、地方自治体等である。

具体的データ

下流水位による高密度ラビリンス堰の流量係数、越流流況の変化

提示した推計式による放流能力の予測精度

その他

  • 研究中課題名:農業水利施設の機能診断・維持管理及び更新技術の開発
  • 実施課題名:豪雨等の大規模災害を考慮したため池放流施設のLCC最適化手法の開発
  • 実施課題ID:412-a-00-008-00-I-09-4805
  • 予算区分:交付金プロ(地震リスク)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:常住直人、高木強治、浪平篤
  • 発表論文等:1)常住・高木(2009)農業農村工学会関東支部講演要旨集: 58-61
                      2)常住ら(2010)農工研技報、210: 177-188