農業水路におけるタモロコの移動特性のモデル化

要約

定住型及び移動型個体の2タイプを考慮したタモロコの移動モデルを構築する。本モデルはタモロコ個体の定住型と移動型の割合及びそれに応じた移動距離の分布の推定を可能とし、水域ネットワーク化計画時の情報提供に活用できる。

  • キーワード:ネットワーク、定住型・移動型個体、モンテカルロ・シミュレーション、個体群
  • 担当:農工研・農村環境部・生態工学研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7686
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

農業用水域における分断点が整備事業によりネットワーク化される場合の魚類個体群の再生過程を予測することは、整備計画時における事前評価を定量的に行う上で重要である。再生過程の予測には、新たな生息地への個体の移入を表現するモデルが必要となるが、同一種内に見られる定住型と移動型の割合およびそれぞれの移動距離の推定法がネックとなっている(図1)。そこで、水田域に広く分布するタモロコの標識採捕記録を取得し、定住型・移動型個体の割合および移動距離の分布を推定する移動モデルを構築する。

成果の内容・特徴

  • 2004年7月~2005年7月に千葉県成田市の農業水路1,700m区間内に54定点を設定し、個体ごとに識別可能な240個体の標識タモロコ(以下、「標識個体」)を放流、その後1~2週間間隔で個体採捕・再放流を計44回繰り返している(図2)。調査期間中、標識個体計98(延べ123)を採捕でき、その採捕率は40%を超える(図2小図-上)。
  • データには、2回以上採捕された標識個体について、採捕1回目から2回目までの移動距離(上流方向が正、下流方向が負)及びその間の経過日数を用いる。経過日数と個体数を図2小図-中に示す。経過日数に対して個体数が偏っているため、それを考慮してデータを期間C-1~3に区分する。
  • 区分されたデータを分析すると(図2小図-下)、移動距離と個体数には放流地点(0m)を中心とする正規分布が認められる(SPSS)。そこで、計算機上にn個体を発生させ、モンテカルロ・シミュレーションによりd日経過後の移動距離を再現するモデルを構築する(図3)。
  • シミュレーションでは2種類の異なる標準偏差(σ及びσ’、平均0)を用い、各々定住型及び移動型個体と位置づける。モデル上の変数はσ、σ’、定住型・移動型個体の存在割合の3つとなり、計算機上に発生させる個体は、一様乱数によってその属性を決定する(図3)。
  • C-2(50日間)データを再現できるモデルを構築し、200日経過後を計算させて、C-3(220日間)データとの比較によりモデルの妥当性を検証する(図3)。
  • 570通りの3変数の組み合わせについて、各1,000回のシミュレーションを行うと、各変数は150、325、0.75:0.25が最適(図4左)となる。これらの変数による分布はC-3データにほぼ一致し、モデルの妥当性を支持している(図4右)。

成果の活用面・留意点

  • 本移動モデルを、個体数の時間的推移を表す個体群動態モデルのモジュールとして組み込むことで、ネットワーク修復計画時における事前検討のための情報を提供できる。
  • データを得た水路は産卵や成育等の生息環境が具備された水路と考えられる。活用に際しては、産卵遡上の発生をはじめ、生息環境を含めた総合的な検討が必要である。

具体的データ

移動特性のモデル化の必要性

 

 

標識採捕法とデータチェック

 

 

図3.モデルの概要

 

 

シミュレーション結果と観察値の比較

その他

  • 研究中課題名:地域資源を活用した豊かな農村環境の形成・管理技術の開発
  • 実施課題名:水域の再ネットワーク化による魚類個体群の再生過程予測モデルの開発
  • 実施課題ID:421-d-00-004-00-I-10-9414
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:竹村武士、森 淳、小出水規行、渡部恵司
  • 発表論文等:1)竹村ら(2010)農業農村工学会論文集、269:347-354