高温年の玄米品質低下を抑制するための用水充足度の重要性

要約

夏の平均気温が観測史上最高となった2010年の水稲の高温登熟障害と水管理の関係に関するアンケート調査結果である。出穂後の水管理に着目すると、用水充足度の高い水管理手法を選択する営農者は、玄米品質の低下が抑制される。

  • キーワード:稲作、高温登熟障害、1等米比率、水管理、用水充足度
  • 担当:気候変動対応・農地・水気候変動
  • 代表連絡先:電話 029-838-7551
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2010年の天候は、北日本から西日本にかけて夏の気温が顕著に高く、都市化の影響の少ない地点の気象台などで平均した夏の平均気温は、統計を開始した1898年以降で最も高い。気候変動による気温上昇予測に鑑みると、猛暑年における稲作現場での水管理と玄米品質の関係を捉えることは、今後の気候変動適応策を検討する上で重要な知見となると考えられる。上記の背景を踏まえて、玄米の出荷量上位20県の営農者を対象に、2010年の水管理に関するアンケート調査を行い、1等米比率との関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2009年産と比べて2010年産の1等米比率が低下した営農者の割合は、全体の46%である(図1)。2009年産または2010年産の1等米比率が100%未満の営農者(以下、落等あり営農者という)が出穂後に実施した水管理手法と2010年産の1等米比率の関係から、営農者が意図する水管理を行うための十分な用水が確保できた落等あり営農者は水管理手法の違いによる1等米比率の差はほとんどみられない(図2)。
  • 出穂後に、比較的水量を必要としない湛水調整(時間帯に応じた湛水深を調整する方法)や飽水管理を実施するために必要な用水が「かなり不足」した場合には、他の水管理手法と比較して1等米比率が低い(図2)。
  • 落等なし営農者(2009年産および2010年産の1等米比率が100%の営農者)と落等あり営農者の出穂後の用水充足度を比較すると、前者のうちで「十分に取水できた」割合は後者に比べて高く、かつ、「かなり不足した」割合はわずかである(図3)。落等なし営農者の圃場では、用水確保が十分可能な条件が整っている。
  • 落等あり営農者の水管理について、単一または複数の実施した水管理手法の全てが「十分」に取水可能な場合に比較して、取水条件が「やや不足(かなり不足を除く)」の場合、および、「かなり不足」を含む水管理手法がある場合には、1等米比率がそれぞれ5.9ポイント、14.6ポイント低下する(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 営農現場で、猛暑時に高温登熟障害を回避する水管理手法を検討する際に活用できる。
  • 本成果は全国的な傾向を示しており、最も効果的な高温登熟障害回避の水管理手法は地域によって異なるため、地域特性に関する詳細分析を行うことが今後の課題である。
  • 営農者への水管理手法は複数回答による結果であり、複数の水管理手法を選択する背景として、複数の圃場で異なる水管理を実施する場合と単一の圃場で試行錯誤的に水管理手法を変更している場合が考えられるが、本研究では分離せずに取り扱っている。
  • 水管理を行う上での用水充足度については、実験等の定量調査による比較ではなく、営農者の判断に基づいていることに留意する必要がある。

具体的データ

図1 2009年産の1等米比率別の2010年産1等米比率の増減図2 落等あり営農者の出穂期以降の水管理ごとの2010年産1等米比率
図3 落等あり営農者と落等なし営農者の用水充足度の内訳図4 出穂期後の用水充足度と落等あり営農者の2010年産1等米比率の関係

(坂田 賢)

その他

  • 中課題名:気候変動が農地・水資源等に及ぼす影響評価と対策技術の開発
  • 中課題番号:210e0
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:坂田 賢、友正達美、内村 求
  • 発表論文等:1)坂田ら(2011)農業農村工学会誌、79(8):27-32