水路補修材料の劣化予測に必要となる促進耐候性試験時間の推定

要約

水路補修材料表面の紫外線劣化の状態を示す指標として変状面積率を定義し、これを指標として現地曝露年数と促進耐候性試験時間との相関を明らかにする。この相関により、補修材料の劣化予測に必要となる促進耐候性試験時間を推定できる。

  • キーワード:促進劣化、有機系表面被覆材、耐候性、二値化、変状面積率、促進倍率
  • 担当:水利施設再生・保全・施設機能・性能照査
  • 代表連絡先:電話 029-838-7573
  • 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

機能低下した農業用水路を対象として、様々な補修工法が適用されている。しかし、その長期耐久性は検証されておらず、早期にひび割れなどの変状が発生しているものも見られる。こうした変状の発生を未然に防止するため、促進劣化試験を用いた劣化予測手法の開発が重要な課題となっている。そこで、有機系表面被覆材の紫外線劣化に対する抵抗性(以下、耐候性)について、現地曝露試験結果と促進耐候性試験の結果を対比し、変状面積率を共通の指標とした相関を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 農業用水路の補修に使用された有機系表面被覆材の表面には、紫外線によって、施工時に巻き込んだと思われる気泡痕の拡大、微細ひび割れなどの変状が見られる(図1)。
  • JIS K 5600-7-7キセノンアークランプ式促進耐候性試験に準拠し、有機系表面被覆材に紫外線を照射した結果の一例を図2に示す。時間の経過とともに、気泡痕の拡大、ひび割れ密度の増大が見られ、現地で確認された変状が促進耐候性試験で再現できる。
  • 促進耐候性試験によって紫外線劣化させた有機系表面被覆材のマイクロスコープ画像に対して二値化処理(図3(a))を行い、黒色部分を変状として抽出すれば、促進耐候性試験時間と変状面積率の関係を定量化できる。図2のB工法の関係を図3(b)に示す。
  • 現地曝露された有機系表面被覆材に対して、同様に画像撮影および二値化処理を行い、変状面積率を算定する。図3(b)の関係によって、変状面積率を共通の指標とすれば、現地曝露年数に対応する促進耐候性試験時間を推定できる。図3(b)の緑、紫、青プロットは、それぞれ同じ現地で2年9ヶ月、3年11ヶ月間曝露された南面(紫、緑)、北面(青)の変状面積率を示している。南面では、曝露後2年9ヶ月の変状面積率が促進耐候性試験時間1,200hr、3年11ヶ月が1,553hrに相当する。一方、北面では南面に比べて劣化の進行が遅く、供用後2年9ヶ月後の変状面積率が促進耐候性試験時間628hrに相当する。
  • 現地で計測した累積紫外線量は、23時間の計測で北面6.56W/cm2、南面16.03W/cm2であり、その比(南面/北面)は2.44となる。4.で得られた北面628hrにこの比を乗ずると1,532hrとなり、南面での値1,553hrとほぼ一致する。これは、有機系表面被覆材の劣化速度が、受光した紫外線量によって決定されることを示す。
  • 変状面積率を共通の指標として整理した供用年数と促進劣化試験時間の相関は図4のように比例関係となり、促進倍率は34.1hr/1ヶ月(南面)、13.4hr/1ヶ月(北面)となる。予定供用年数を仮に20年とした場合、20年間の耐候性を照査するために必要な促進耐候性試験時間は8,184hrとなる。この時間の紫外線照射後に各種性能試験を行えば、供用年数経過後の補修材料の性能を予測することができる。

成果の活用面・留意点

  • 複数の異なる補修材料に関しても促進耐候性試験と現地曝露試験との比較を行い、精度および適用範囲を検証する必要がある。
  • 補修地区における定期的な調査およびデータの蓄積が、予測精度を向上させる。

具体的データ

図1 マイクロスコープで観察できる表面被覆材表面の変状(レンズ倍率20倍)
図2 促進耐候性試験の方法と補修材料A~Dの促進耐候性試験前後の拡大画像
図3 二値化の方法(a)および促進耐候性試験時間と変状面積率との相関(b)図4 変状面積率を指標として算定された促進倍率

(森 充広)

その他

  • 中課題名:農業水利施設の効率的な構造機能診断および性能照査手法の開発
  • 中課題番号:411a0
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:森充広、渡嘉敷勝、西原正彦
  • 発表論文等:1)奥野ら(2011)農業農村工学会論文集、274:9-16
    2)奥野ら(2011)日本コンクリート工学協会、33(1):791-796