ストックマネジメントを考慮した農業水利資本ストック額推定モデル

要約

ストックマネジメントによる農業水利施設の長寿命化を考慮し、年事業費(投資相当分)から特定年における資本ストック額を推定・予測するモデルである。農業水利施設の計画的なストック管理やストックマネジメント施策の効果評価に活用できる。

  • キーワード:ストックマネジメント施策、農業水利施設、資本ストック、ストック管理、効果評価
  • 担当:水利施設再生・保全・施設機能・性能照査
  • 代表連絡先:電話 029-838-7667
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

日本全体の農業水利施設に関するストック管理を計画的に実施するため、ストックマネジメント(ストマネ)施策や毎年の投資額が将来の資本ストック額にどのように影響するのかを定量的に把握する必要がある。このモデルは、ストマネによる農業水利施設の長寿命化を考慮し、年事業費(用地補償費等を除く投資相当分)から特定年における資本ストック額を定量化するものである。

成果の内容・特徴

  • ストマネ施策にもとづく補強による更新は、全面更新の場合に比べて「施設の実耐用年数の長期化効果」と「旧施設の継続利用効果」の二つの効果が想定される。これらの効果を現地調査及び農林水産省が実施した全国調査(農業基盤情報基礎調査)の結果から定量化すると、実耐用年数の長期化効果は、1994~2008年の14年間で4.4年になる(図1)。また、補強工法による旧施設の継続利用効果は、全面更新の事業費の25%(継続利用率0.25)である(表1)。
  • これら二つの長寿命化効果を考慮し、恒常在庫法(PI法)をベースに、資本ストック額の定量化モデルを定式化する(図2)。このモデルは、過去および将来の事業費を入力することにより、特定年度の資本ストック額をマクロの経済指標や国の決算報告の結果と整合的に算定した結果を出力する。
  • モデルを適用して日本全体の農業水利施設の資本ストック額を定量化すれば(図3)、ボトムアップ調査である農業基盤情報基礎調査(農林水産省)では十分に把握・評価しきれていない資本ストックの存在を示すことができる。
  • また、ストマネの効果がなければ、2011年度の事業費水準が続いた場合の資本ストック水準は低下すること、ストマネ施策による施設長寿命化により2030年度ころまでは、資本ストック額がピークとなった2008年度の水準を維持可能であること、しかし、それ以降は、現状の公共投資額の水準が続く限り維持困難なことを示すことができる。
  • さらに、ストマネ施策による長寿命化効果がある場合の資本ストック額は、長寿命化効果が無い場合に比べて2040年度時点で約6兆5千億円大きくなることが予測できる。

成果の活用面・留意点

  • ストマネ施策を実施した場合と実施しない場合の資本ストック額を定量的に評価できるので、行政部局が実施する農業農村整備事業に関する政策評価に活用できる。
  • 農林水産省が実施している農業基盤情報基礎調査に合わせて本モデルを適用して資本ストック額を推定することにより、より正確な資本ストック額の把握が可能となる。
  • 現実に沿った推定のため、年度投資額と災害復旧費のデータを更新する必要がある。
  • 対象施設は、国営、都道府県営のかんがい排水事業及び総合農地防災事業、機構営(公団営)事業、都道府県営鉱毒対策事業により整備される末端支配面積100ha以上の大規模な水利施設(貯水施設、頭首工、水門、水路及びポンプ場)である。

具体的データ

図1 水利施設の実耐用年数の長期化(実績)
図3 農業水利施設の資本ストック額(2005年度価格)の推移

(國光洋二)

その他

  • 中課題名:農業水利施設の効率的な構造機能診断及び性能照査手法の開発
  • 中課題番号:411a0
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:國光洋二
  • 発表論文等:1)國光、中田(2011)農業農村工学会大会講演会講演要旨集:660-661