ため池群の機能保全のための改修優先順位付け手法

要約

ため池群の防災・減災機能保全のための改修優先順位付け処理を既存データを用いて簡便に行える。この優先順位に即して計画的に洪水吐等を改修することにより、財政制約条件下でもため池群全体の改修の費用対効果を確実に高められる。

  • キーワード:ため池、改修、最適化、平均分散モデル、機能保全
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7564
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東日本大震災後、全国に多数ある老朽ため池の防災・減災が喫緊の課題となっている。しかし、ため池群の防災改修費用は多大な上、国からの交付金等により地方自治体が主に行う。したがって、財政制約条件下で防災・減災機能をより高く保全すべく、適切な優先順位で改修していく必要がある。このために、ため池群の改修の最適優先順位付け手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本手法における優先順位付け処理は、平均分散モデル(MVM)により行っている。MVMは群全体の収益率の最大化とその標準偏差の最小化を成すべく、群内にウェイト付けを行う手法である。本手法では、MVMのウェイト順の優先順位でため池を改修することにより、財政制約条件下で、もしくは多年に亘る改修予算投下の初期から終期まで、ため池群の改修事業収益率(費用便益比率の一変形)を高く、かつ災害発生確率などに伴う収益率の変動可能性(≒標準偏差)を低く出来る(図1)。すなわち、(ため池群全体の改修事業収益率)/(同 標準偏差)(=シャープレシオ、以下SR)を最大化出来る。なお、本手法における改修事業収益率とは、「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(農水省農村振興局、2007)に事業効果の指標として提示されているIRR(内部収益率)である。
  • 本手法では、ため池群を扱うことによる処理量増大の労力を減じるため、優先順位付け処理に影響しない範囲で、極力省力化・簡略化した処理としている。同様に、使用データは、農村振興地理情報システム(農水省農村振興局)や市販GISデータなど、低価格で容易に得られるものに絞り込んでいる。
  • 本手法は、入力部、各ため池の防災改修効果額推計部、各ため池の防災改修費用額推計部、改修の最適優先順位付け処理部の4つから構成される(図2)。
  • 防災改修効果額は、ため池未改修の場合の災害時決壊被災額であり、「新たな土地改良の効果算定マニュアル」(農水省農村振興局、2007)に準拠して推計しているが、この他、優先順位付けに大きな影響を及ぼす人的被災額も付加している。人的被災額は事故災害で一般に用いられる逸失利益にて推計している。一方、農地・家屋・資産等の被災額に比べ概して小さく、かつ個別調査を要す作物被災額は省略している。以上の決壊被災額は、災害種別を問わず、図3に示す地理情報システム(GIS)アプリケーションで省力的に推計出来る。
  • 防災改修費用には堤体、洪水吐等が含まれる。改修費用額は、本手法で導出した最小改修費用を求める回帰式により省力的かつ迅速に算出される。

成果の活用面・留意点

  • 地目等のGISデータや改修費用推計式は適宜更新が必要である。
  • 改修効果、改修費用に項目を追加しても基本的なアルゴリズムは不変である。

具体的データ

図1  4カ所のため池群での適用事例
図2  本手法の処理手順図3  被災額推計用GISアプリケーション

(常住直人)

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:常住直人、高木強治、浪平篤
  • 発表論文等:1)常住(2011)ARIC情報、102:29-34
    2)常住、高木(2011)ダム工学、21(2):117-121