農業水路等における要注意外来生物カラドジョウと在来ドジョウの簡易な判別式の開発

要約

農業水路等における外来種の拡散防止に向けて、体形からは見分け難いカラドジョウとドジョウを簡易に特定できる判別式を開発する。判別式の変数は体長で標準化した尾柄高と髭長からなり、算出した判別値の正負から両種を95.3%の正答率で決定できる。

  • キーワード:多変量解析、農業水利施設、生物多様性
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7686
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域、農村基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業水利施設や農地の保全管理では、地域住民の合意・参画を得て、豊かな農村生態系とそのネットワークの保全・再生が求められている。

我が国では、在来のドジョウに体形の似る、外来種カラドジョウ(以下、本種)が東北~四国の23県で確認されている。本種の水路等への侵入は、ドジョウの消滅や交雑に伴う遺伝子汚染を招く可能性があり、環境省は本種を要注意外来生物に指定している。さらに、本種は冬季でさえも水路の特定箇所に集まる傾向を持たず、魚類を餌とする大型鳥類にも影響を与える恐れがある。

近年、購入したドジョウを水路や水田に放流する事例が見られるが、本種もこの中に含まれている可能性がある。出自が明確でない個体を無闇に放流しない啓発、現場で簡便に行える判別技術があれば、本種の生息分布は農地・水保全管理等の生き物調査によって解明され、その分布を考慮した拡散防止が可能となる。

本研究では、農地・水保全管理等の活動組織、行政部局、学校等の諸機関において、分類学的知識がなくても、両種を簡易に特定できる判別式を開発する。

成果の内容・特徴

  • 栃木県内の水路等で採捕された312個体のドジョウMisgurnus anguillicaudatusと72個体のカラドジョウParamisgurnus dabryanusをサンプルとする。各個体は無水(99.5%)エタノールで固定後、-30°Cで約1ヵ月以上保管され、予めDNA分析によって種、交雑個体でないことが確認されている。
  • 各個体の(標準)体長、頭長、体高、尾柄高、尾柄長、最長の(上顎第3)髭長の計6部位について(図1)、デジタルノギスを用いて0.1mm単位で計測する。表1にサンプルについての各部位の平均±標準偏差と最小~最大をまとめて示す。
  • 体長の大きさに伴う偏りを取り除くため、各部位を体長に占める割合%に標準化する(以下、頭長体長%等と表示)。外的基準Yとしてドジョウを0、本種を1、独立変数Xとして標準化した各部位をあてはめ、変数選択させながら判別式を作成する。
  • 式1にドジョウと本種の判別式とその統計量を示す。判別式は統計的に有意となり、尾柄高体長%と髭長体長%を変数に持つ。判別値Y≦0はドジョウ、Y>0は本種となり、判別式の正答率はドジョウで95.5%、本種で94.4%(全体で95.3%)となる。なお、式の利用においては、計測サンプルの体長、尾柄高、髭長が式1に示す範囲にあること、Y=-0.467~1.217は誤判別の可能性に留意しなくてはならない(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 水田環境調査団体「メダカ里親の会」(栃木県宇都宮市)から研修を兼ねての技術指導の問い合わせを受けている。

具体的データ

図1 計測する6部位
表1 6部位の平均±標準偏差と最小~最大
式1 ドジョウとカラドジョウの判別式
図2 判別値Yと誤判別の関係

(小出水規行)

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:小出水規行、森 淳、渡部恵司、竹村武士
  • 発表論文等:1)小出水ら(2012)農工研技報、212:167-175