効率的な応力変形・浸透解析手法による大規模農地地すべりの危険変形域推定法

要約

広域災害につながる大規模農地地すべりの三次元的な地下水浸透と応力変形状態を効率的に推定できる。実測された地下水位に即応した三次元的な地盤状態とともに、危険変形域(ひずみ集中域)を迅速に推定して防止対策を行うべき個所を推定できる。

  • キーワード:農地斜面、大規模地すべり、応力変形解析、地すべり防止対策
  • 担当:農地防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-7670
  • 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大規模な農地地すべりでは、100ha以上の広域の地すべり域で局所的なひずみが進行し、地盤の破壊が生じている。大規模な地盤の変状を考慮したきめの細かい防災対策を行うためには、すべり面の厳密な物性特性を求めて三次元的に変形(ひずみ)を解析し、危険域を把握して防災対策を重点的に行う箇所を評価する必要がある。そこで、地すべり面の厳密な物性を実測して局所的な破壊の進行を効率的に評価し、大規模な農地地すべり防止対策の立案に役立てる手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 大規模地すべり地区の複数測線で得られている地形・地質・地下水の調査結果を補間して100ha以上の広域で三次元モデルを構成している(図1)。
  • すべり面強度は調査現地(地表面採取)及び近傍類似地質現地(すべり面採取)の採取試料を用い、大変形(変位2m以上)を加えた後に緩速試験(毎分約0.01mm以下)を行って地盤大変形後の強度(残留強度)を厳密に測定した結果を用いている(図2)。また、同等地質の農地地すべり斜面で採取した土質試料の実測値に基づいて局所的に生ずる進行的な破壊を考慮して三次元的な地盤状態を推定している。
  • 動的緩和法と呼ばれる効率的な手法を用いて浸透解析を行っている。通常は実測地下水に即した浸透状態を推定するためには煩雑な試行計算が必要であるが、用いた手法では、標準的な卓上計算機で要した時間が8秒であり、効率的な評価が可能である(図3)。
  • 局所的なひずみが進行する地盤の破壊を評価するには多くの反復計算が必要であり、通常は膨大な計算時間を要するが、応力変形解析にも動的緩和法を用いることにより効率的な評価が可能になる。標準的な卓上計算機で90000回の反復計算に要した時間が71分15秒であり、危険変形域(ひずみ集中領域)を迅速に評価できる(図4)。この領域では、地すべり防止対策を重点的に行うべきである。

成果の活用面・留意点

  • 大規模な農地地すべりの危険変形域推定は、各種データを有する直轄地すべり地区を対象とする。
  • すべり面採取試料はすべての地区で得難いため、現地の地表面で採取された試料と近傍地区のすべり面強度で採取された試料を用いて現地のすべり面強度を推定している。今後も現地試料の物性データを蓄積する必要がある。

具体的データ

図1 測線におけるメッシュ分割(A地区)
図2 地盤大変形後の変位(残留強度)
図3 浸透流の推定結果図4 危険変形域(ひずみ集中域)

(川本治)

その他

  • 中課題名:高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:川本 治、吉迫 宏、井上敬資、正田大輔
  • 発表論文等:1)川本ら(2009)農業農村工学会論文集、77(4):385-393